小説を楽しんでプラス

主に私が作成した超短編小説(ショートショート)を記事にします。ほかにお気に入りの小説を紹介します。

超短編小説 幸福度を上げる為に

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神様のノルマ

 神様の世界も人間を幸福にするというノルマがあるようだ。担当地区の幸福度が低いと神様として失格らしい。日本人の幸福度が低い為、日本の神様も人間と同様に大変なようだ。今も神様達が会議室に集まり頭を悩ませている。

「日本人の幸福度が低すぎると世界から非難を浴びている。このままでは、我々、日本の神様のメンツが丸潰れだ。各々の担当地区の幸福度のノルマ達成に全力をつくしてくれ、話しはそれだけだ」

「はい」

「あー、それから、特に幸福度の低い地区の担当者は、後で呼び出すからな」

「えーっ」

「わかったか」

「はーい」

 

 西地区を担当する神様はサボり気味で、人間の幸福度に興味がなく、これまではごまかしながらやってきたが、今回はそういうわけにはいかなくなったようだ。

「君の担当する西地区の幸福度が低すぎるので呼び出したんだが」

「あっ、はい、申し訳ありません」

「謝らなくていい、何故、こんなに低いのか、それを説明しなさい」

「いやー、わかりません」

「さぼってたんだろ、西地区の人間をフォロー出来ていなかったんじゃないか」

「いえ、そんなことはありません。しっかり人間を観察しフォローしてきました」

「しっかり観察してフォローしていれば、こんなに低くなることはありえない。わかってると思うが、担当地区の幸福度が低すぎると、君は神様で居れなくなる。そして、君の上司である、わしの立場も危うくなる。今すぐ幸福度の低い人間と直接会って対策してくれ」

「人間に直接会って、ですか」

「そうだ」

「人間に直接会うことは、禁止ではなかったでしょうか」

「禁止だが、そんなこと言ってられないだろ。それとも、今のやり方で、君は西地区の幸福度のノルマを達成出来るのか」

「いえ、わかりました。人間に直接会ってみます」

 

「困ったなぁ、これまでさぼってたのが、ばれてしまうな。はぁー、これが西地区リストか」

 西地区の神様は、はじめて見る西地区リストのページを何度もめくっては閉じ、溜め息をついた。

「この中から、どの人間に会いに行けば良いんだろう」

 最後は目を閉じたまま、適当にページを開いた。

「よし、この男にしよう」  

 横山彰 48歳、結婚20年。妻の優香、長女の祐実との3人家族。夫婦仲が悪く幸福度が低い。長女の祐実とも最近は会話が無く、幸福度が一段と下がってきている。

「どこにでも居そうな冴えない中年男なんだろうな。しかし、なんとか幸福度を上げないとな。彼の会社の前で待ち伏せして会ってみるか」 

 

幸福度を上げる為に

「あなた、横山彰さんですよね。少し、お時間いいですか」

「あっ、はい……、失礼ですが……、あなたは……」

「あー、わたしですか、わたしは、こういう者です」

 神様は、手書きで角が潰れた名刺を差し出した。

 横山は怪訝な表情をし、少しシミのついた名刺に視線を落とした。

「人間を幸福にする神様、西地区担当……、ふぅーん……」

 そう言って、横山は神様に視線を移した。

「どうも」

 神様は目尻を下げ、頬を緩めた。

「西地区担当の神様ですか……」

 横山は名刺と神様を交互に見た。

「そうなんですよ」

「神様にも担当地区とかあるんですね」

「昔と違って神様も忙しくてね」

「その西地区担当の神様が私に何の用ですか」

「夫婦仲の悪さが原因で、あなたの幸福度が低いんですよ。担当の神様として、それを解決しないといけないんです」

「私の幸福度ですか、確かに低いでしょうね」

 横山は髪が薄くなった頭を掻いた。

「夫婦仲が良くなる方法を、わたしと一緒に考えてみませんか」

「うーん、こればっかりは、いくら神様でも無理でしょうね」

「えっ、あきらめてしまってるんですか。夫婦仲を良くしたくないんですか……」

「そうですね、何で、こんな女と結婚したんだろうと後悔しています。今思えば、結婚してしまったことが不幸の始まりだったんですよ。だから今さらどうしようもないんです」

「そうですか、結婚したことが不幸の始まりですか……、うーん……」

 神様は眉間にしわを寄せ、腕を組んだまま、しばらく動かなくなった。

「そろそろ、いいですか、私も帰らないといけないので……、まぁ、妻も娘も私の帰りなど待っていませんけどね」

 横山は腕時計に目をやった。辺りは暗くなり、帰宅する同僚達の目が気になっていた。

 神様は目を閉じたまま、まだ動かなかった。

「はぁ」横山は溜め息をついた。

「よしっ、決まった。これしかない」

 神様が急に目を見開いて、ポンと手を打った。

「何か良い方法でも思い付きましたか」

 横山は肩を落としながら、もう一度、腕時計に目をやった。

「絶対良い方法ですよ」

「そうですか、じゃあ、早く話して下さい」

 また腕時計に目をやった。

「それはですね、結婚する前のあなたに会いに行って、結婚するのをやめてもらうんですよ」

「はぁ、そんなこと出来るんですか」

「今回は特別です。あなたの幸福度を上げる為なら、やるしかないです」

「具体的には、どうするんですか」

 横山の態度が変わり、身を乗り出すように聞いてきた。

「わたしの特殊な能力で、あなたを20年前のプロポーズする前日にタイムスリップさせます。そして、あなたは20年前のあなたに会って、プロポーズをやめるよう説得するんです」

 「なるほど、でも、うまく説得出来るでしょうか」

「20年前のあなた自身を説得するわけですからね、きっとうまくいきますよ。今、不幸になっている原因が優香さんと結婚したことだと知れば、プロポーズは取り止めるでしょう」

「確かに、そうですね。やってみます」

 横山の目が輝いた。

 「それでは、あなたを20年前にタイムスリップさせます。準備はいいですか」

 

20年前、プロポーズの前日 

「明日は優香にプロポーズするぞ。明日のレストランの時でいいな。なんて言おうかな。『俺についてきてくれ』いや『一緒に幸せになろう』ストレートに『結婚してくれ』の方がいいかな」

 20年前の横山は、ベッドの上にあぐらをかき、腕を組んで天井を眺めながら呟いていた。明日のプロポーズする自分の姿と優香の喜んでいる顔を想像して、頬を緩ませた。

「夜遅くに悪いんだけど、ちょっといいかな」

 眺めていた天井から人間の顔が出たと思った瞬間、ベッドの上に人間が落ちてきた。

「うわわわ、お、お化けだ」そう叫んで、ベッドから飛び降り、ベッドの上のお化けに目をやった。

「お化けじゃないよ、私だよ」ベッドの上に落ちた横山が言った。

「わ、私って、だ、だ、誰だ」20年前の横山はドアまで後ずさりしてバットを手にした。

「おい、おい、怪しい者ではないです。私です、私の顔を、よーく見て下さい。私は20年後の君ですよ。ほら、ほら、このホクロを見て下さい」

 横山は眼鏡をとり、目元のホクロを人差し指でさした。

「えーっ、ほんとに20年後の俺か……、確かに俺のようにも見えるけど……」

 20年前の横山は、横山を頭のてっぺんから足の爪先まで、何度も何度も見た。

「間違いなく、私は20年後の君ですよ」

「うーん、でも、20年で、こんなに太って腹が出て、禿げちゃうのか。ただのジジイになってるじゃないかよ」

「ただのシジイって、君は口が悪いな。自分自信に言われてるとわかっていても腹が立つな」

「20年後の俺が、何でここにいるんだ。20年後にはタイムマシーンも出来ているのか」

「いや、神様が私をタイムスリップさせてくれたんだ」

「神様が……、何で神様がそんなことしてくれたんだよ」

「それはだな、私の幸福度が低いんで、それを上げる為だそうだ」

「今の俺は幸福だけど、20年後の俺の幸福度が低いのは困るな」

「そうだろ、それで君にお願いしたいことがあって来たんだ」

「なるほど、俺に出来ることなら、もちろん協力するよ」

「頼むよ、君にしか出来ないことなんだ」

 横山は手を合わせた。

「俺に何してほしいんだ」

「してほしい、というよりやめてほしいんだ」

「やめてほしい……」

「そう、やめてほしいことがあるんだ」

「タバコや酒かな、ギャンブルは最近は勝てないからやってないしな」

「いや、それは今の私の方がよくやっていると思う。家に帰りたくないから、毎日のように飲みに行ったりパチンコに行ったりしているから」

「そりゃ、ダメだよ。体にも良くないし、早く帰って家族を大切にしないと」

「……」

「他に俺がやめないといけない事なんてあるかな」

「明日、君は優香にプロポーズするつもりだろ」

「あー、そうだ、今は胸がワクワクのドキドキだ」

「そ、そうか、それなんだけど、えーと……、実は、やめてほしいのは、そのプロポーズなんだ」

「えーっ、何言ってんだ、それはダメだ」

「頼む、明日のプロポーズが、私の不幸の始まりなんだ」

「ふん、不幸の始まり、そんなはずない」

「今の私は、不幸なんだ。その原因は優香と結婚したことなんだ」

「何、言ってんだ。俺は優香を愛してるんだぞ。優香と結婚して不幸になるわけないだろ。いいかげんな事言うな」

「20年後の私が言ってるんだから間違いないんだ。今の君には、わからないだけなんだ」

「うるさい、人生の大事な時に邪魔するな」

「人生の大事な時だから、こうして頼みに来たんだ。わかってくれよ」

「わかるわけない。お前の言うことは絶対に信じない。俺は優香を幸せにすると決めたんだ」

「君は、恋しているから冷静でなくなっているんだ。20年後の優香は、私に対して、給料が安いだの、パチンコばかりしてるだの、少しくらい家事を手伝えだの、そんな事しか言わないんだ。私が仕事で疲れていることなんてお構い無しだ」

「違う、優香は、そんな女性じゃない」

「優香は変わってしまうんだよ。私は一緒にいるだけでも苦痛なんだよ」

「だまってくれ、悪いのは優香じゃない。お前が、お前が、お前が悪いに決まっている。お前が優香を幸せに出来なかっただけなんだ。俺は絶対にそうならない。優香を幸せにする」

 20年前の横山の目から涙がこぼれた。

「俺の夢を奪うな」20年前の横山が小さく呟いて拳を握った。

 横山は言葉を失った。20年前の自分の姿を見て、横山の目にも涙が浮かんだ。

 横山は「もう一度だ」と小さく呟いた。

 

現在に戻って  

「どうですか、うまくいきましたか」

「いや、20年前の私にプロポーズをやめさせることは出来ませんでした」

 横山はうなだれていた。

「そうですか……、それでは、もう一度、説得に行きましょう。すぐに準備して下さい」

「いえ、もうやめておきます。そんなことしたら20年前の私が、きっと不幸になります」

 横山は涙がこぼれそうになり、空を見上げた。

「でも、このままだと、あなたが幸福になれないじゃないですか」

「いえ、私が間違ってました。幸福になる為に必要なことは、私が変わることだったんです」

「あなたが変わることですか……」

「そうです、私がもう一度、20年前の私の気持ちに戻ること、そう変わることです」