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人生も後半戦

人生も後半戦になったら、これまでの生き方に後悔することもあります。しかし、後悔しても仕方ない。この先楽しく生きるためにいろんなことに挑戦

超短編小説 天国か地獄か

「いらっしゃいませ、人生、お疲れさまでした」
「こ、ここはどこですか」
「死後の世界です」
「死、死後……ですか、……ということは私は死んだのですか」
「そうです、あなたの人生は終了しました。今からあなたの審判に入るところです」
「審判……、ですか。天国か地獄かとかいう……あれですか」
「よーくご存じで、今からあなたの85年の人生を振り返り、この先、天国に行くべきか、地獄に落ちるべきかを審判させてもらいます」
「私は地獄に落ちるようなことはやっていません。天国に行かせて下さい」
「うーん、あなたの資料に目を通しましたが、天国に行けるようなことが見当たらないんですよね。生きている間に他人の為になることをやりましたか」
「他人の為ですか」
「そうです、他人の為になることを数多くやっていれば天国に行けます」
「定年後に子供達の交通安全の為に毎朝、通学路に立ち子供達を見守りました」
「はいはい、資料で拝見しましたが、ちょっと弱いですね、知り合いに依頼されて渋々引き受けた感があります。健康の為になるからと自分自身に言い聞かせながらやってたわけですからね。子供の安全の為という気持ちは弱かったですね」
「家族の為、会社の為、社会の為に一生懸命に働きました」
「そんなの当たり前なんですよ。それくらいは、やってもらわないと人間界にいる資格ないです。それよりあなた、地獄に落ちるようなことをやってますよね」
「いえ、真面目に生きてきました。絶対にやっていません」
「学生の頃、万引きしてますよね」
「いやー……、遠い昔のことです。未成年でしたし、魔が差したというか……、安い菓子を盗んだだけです。みんなもやってましたし」
「今も昔も関係ありません。あなたの一生を審判してるわけですからね。それから、ここでは少年法なんて関係ないですし、もちろん時効なんてありませんからね」
「あっ……、はい、すいません反省しています」
「謝っても反省しても、犯した罪は消えません。それから、犯した万引きの罪が重いか軽いかは、あなたが判断するものではありません。ここでは被害にあった方が、それが原因でどんな思いをしたかで判断します。なのであなたが軽いと思っていても被害にあった方が、それが原因で辛い人生になっていたら重い犯罪になります。なので、菓子一つ盗んだだけでも地獄行きになることはあります」
「えーっ、そんな……、地獄は、殺人とか凶悪な犯罪をした人間が行く所じゃないんですか」
「考え方が生きていた頃と同じで甘いんです。悪いことをすれば地獄に落ちます。絶対に天国には行けません」
「何とか助けて下さい。お願いします」
「私はあなたを助ける為に、ここにいるわけではありません。自分が悪いことをしておきながら、誰かに助けてもらおうという考えが甘いんです。最近の人間界の甘さが、よくわかります」
「……」
「小学生の頃、同級生の女の子の容姿を馬鹿にして、いじめてましたよね」
「いや、いじめと言うほど陰湿なものではありません。からかって遊んでいただけです」
「先ほども言いましたが、罪の重さは、あなたが判断するものではありません。いじめを受けた女の子がどんな思いをしたかで決まります。彼女が、あなたのいじめが原因で自殺でもしたら、ここでの審判は殺人と罪は変わりませんから地獄行き確定です」
「そんな……」
「それから不倫もしましたよね」
「いや、それも魔が差しただけです。一時的なことで……」
「ふん、ここはあなたの言い訳を聞く場ではありませんので、魔が差したからとか関係ないですから。何度も言わせないで下さい」 
「あっ、はい……、わかりました」
「では、審判の結果ですが、まずは万引きの件です。被害に合った方は万引きのせいで経営難に陥り頭を悩ませていましたね。結局、店を閉めてしまいました」
「そうでしたか」
「しかし、あなたの万引きだけが原因ではないので、これだけで地獄行き確定になりませんでした」
「助かりました」
「女の子のいじめの件ですが、女の子は学校に行きたくない時期もあったようです。しかし、彼女をいじめから守ってくれた女友達がいたようです。その女友達のおかげで勇気を持つことが出来、不登校とか、自殺するとかは、なかったようですね」
「彼女をからかっていた時、私に対して鬼の形相で怒ってきた同級生の女の子がいました。多分、その女の子だと思います」
「ふん、そうですか、その女友達のおかげで、いじめの件でも残念ながら地獄行き確定にはなりませんでした」
「ざ、ざんねんながら……ですか」
「それから不倫については、奥さまから許してもらえて、その後は夫婦円満でしたし、不倫相手の方も、その後幸せに暮らしていましたので地獄行きには出来ませんでした」
「……出来ませんでした、ですか」
「そうですよ、残念ながら、あなたを地獄に落とすことは出来ませんでした」
「私を地獄に落とそうとしていたのでしょうか」
「そうですよ、我々は出来るだけ地獄に落としてしまいたいんですよ。天国と人間界を綺麗にしたいんで、要らないものは地獄に捨てたいんです。断捨離ですね。あなたも、もう少しで地獄に落とせたんですが、残念です」
「……」
「実は地獄に落とせなかった理由の一つに子供達を見守った件もあります。あなたが笑顔で見守ってくれていたのが嬉しくて学校へ行くのが好きになった子供達がいたそうです。その子供達の中には、現在、医者になって他人の命を救うことに人生を捧げているような人もいます。日本を良くしたいと政治家を志している人もいます。あなたも少しは、それに貢献したということになっています」
「そんな子供達がいてくれたのは嬉しいです」
「私としては、あなたの力ではなく子供達だけの力だと思うのですがね、審判の結果がそういうことなので仕方ないです」
「天国に行けるんですか」
「それは無理です。天国に行けるようなことはやっていません」
「それでは、私はどうなるんでしょうか」
「もう一度やり直しですね」
「やり直し……ですか」
「そう、やり直しです。もう一度、生まれ変わって人生やり直してもらいます。今回、あなたはラッキーでしたので地獄に落とせませんでしたが、次回は覚悟しておいて下さい。次回の審判で、又お会いしましょう。それまで、生まれ変わって中途半端な人生を過ごしておいて下さい」

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