小説を楽しんでプラス

主に私が作成した超短編小説(ショートショート)を記事にします。ほかにお気に入りの小説を紹介します。

小説を読もう「ラプラスの魔女 東野圭吾」の言葉表現

東野圭吾の小説が好きで特に表現のしかたに憧れています。そんな表現をまとめただけの資料です。

f:id:sujya:20180530110259j:plain
ラプラスの魔女 (角川文庫) 著者 東野圭吾 (著)

細かい振動で目を覚ました。瞼を開けると、見慣れないものが目の前にあった。それが車の天井だと気づくのに、ほんの少し時間を要した。

小学校も中学校も高校も数百メートルの円の中に収まる。

武尾は拳を固めた。仕事を依頼されたのはありがたい。だがそれ以上に護衛という言葉に胸が高鳴った。

彼の考えを察したように、男性は笑みを浮かべてかぶりを振った。

ただし、といって桐宮玲は人差し指を立てた。

彼女はいわれた通りにしろ、とばかりに小さく首を縦に振った。

「この人でいいよ」と桐宮玲にいい、くるりと踵(きびす)を返した。

千佐都は長い髪がよく似合う典型的な和風の美人で、肌には透明感があり、切れ長の目からは妖艶な光が放たれていた。

そこに立っている人物を見て、思わずスピードを緩めた。

まあいいか……頭を一つ振ってから、洋子は再び車を発進させた。その瞬間、彼の名が「木村」だったことを思い出した。

「いやあ、最高ですよ」義郎が背筋を伸ばし、相好を崩した。「身体の芯まで温まる。露天風呂は特にいい。切れるような風の冷たさとのバランスが絶妙だ」

自分の席でカップラーメンを啜り(すすり)ながらインターネットの記事を眺めていた中岡祐二は『映像プロデューサーの水城義郎さん、温泉地で亡くなる』という文章を見つけ、あやうくむせそうになった。

中岡は食べかけのカップラーメンを机に置き、引き出しを開けた。雑多なものが放り込んであるので、目的の品がなかなか見つからない。書類の束の間から、ようやく1通の封筒を引っ張り出した。

笑みを浮かべていた水城ミヨシだったが、中岡が手紙のことを切り出すと、顔の皺が深くなるほど口元を歪めた。

何気なく親族席を見ると、最前列に座っている太った中年女と目が合った。女は憎々しげに千佐都を睨んだ後、口をへの字にして横を向いた。

「そうですか、それは残念ですね。夫はお母様に見送ってほしかったでしょうに」さらりとそういい返してやったら、女は悔しそうに目を剥いた。

村山は50代半ばの小男で、狸のような風貌のせいでずる賢く見える。

受けった名刺で千佐都のバッグは膨れた。

円華は彼を見て何かをいいかけたが、テーブルの新聞に目をやると、手に取った。さらに大きく広げ、立ったままで読み始めた。どの記事を読んでいるのか武尾の位置からはわからない。

桐宮玲は腰を屈め、テーブルの新聞を開いた。「どうして急に新聞なんか読みだしたんだろ……」

ところがタイヤがスリップし、前に進まない。彼女は苛立ったように両手でハンドルを叩いた。「一体、どういうことっ?」珍しく声を荒げた。その言葉は円華に向けられたようだった。

自分は円華のボディガードではなく、彼女を逃げられないよう監視する役目だったのではないか  遠ざかる姿を見送りながら、そう思った。

自動改札機を抜けると、すぐに目的の相手が見つかった。緑色の防寒着に身を包み、耳当てのついた帽子を被っている。現場はそんなに寒いのか、と青江修介は少々不安になった。

「先生、どうもです。どうも、お疲れ様です」磯部が両腕を身体の脇につけ、くそ丁寧にお辞儀してきた。

「ありがとうございます。わざわざすみません」青江の言葉に、磯部は目を見開き、手を大きく横に振った。「とんでもない。先生こそ、東京からこんなところまで来ていただいて、本当にすまんことだと思っとります」

運転席の磯部は、前を向いたまま頭を振った。

つづら折りの道を延々と上ること約二十分、ようやく小さな集落が見えてきた。時代劇を思わせる家並みの中、コンクリート製の四角い建物がある。集会所で、火山ガス事故対策本部はここに置かれている。

磯部が急須で淹れたお茶を青江の傍らに置いた。「いかがですか」
青江は記録紙を眺めながら茶を啜った。

「そういうことになります。だから困っちゃいましてねえ。あの現場を立入禁止にするのはいいんだけど、じゃあほかの場所はどうなんだってことになっちゃって」磯部は眉をハの字にした。

娘は臆した色も見せず、冷めた表情で磯部と青江を見比べ、最後に二人の背後に視線を向けた。「事故が起きたのは、その先?」少し鼻にかかった声で訊いてきた。

「事故のことを知っとるなら、何で立入禁止かもわかるだろう。さあ、早く行った行った」手のひらで払いのけるしぐさをした。

彼女は青江を見ると気まずそうに立ち上がった。足早にそばの階段を上がっていく。

「息子さんの死について、水城さんはどんなふうにいっておられましたか」
中岡の質問に、小森は苦いものを口にしたような顔をした。思っていることを言葉にするのが躊躇われるようだ。

小森は深呼吸した後、真っ直ぐに中岡を見つめてきた。

「息子は殺されたんだって、私におっしゃいました。私以外の何人かの職員も聞いています」
中岡の心臓が跳ねた。

中岡は素早く名刺を差し出した。「警視庁麻布北署の者です。中岡といいます。失礼ですが、水城義郎さんの奥様でしょうか」
女は名刺を受け取って一瞥(いちべつ)した後、バッグにしまうこともなく彼のほうに返した。刑事の名刺などほしくないということか。

水城千佐都は高い鼻を小さく上下させた。「そうですか。それなら仕方ありませんね。聞かないでおきます」

千佐都は能面のような表情のない顔で、それはどうも心遣いに感謝いたします、と抑揚のない声で応じてきた。

「どうぞ、気が済むまでお調べになって下さいね」千佐都は不敵な笑みを浮かべていった。目は冷徹そうな光を放っている。

千佐都は、自信に満ちた笑みを唇に載せたまま、小さく頷いた。

建物から出た刑事が、駅のほうに向かって歩いていく。その後ろ姿を窓から確認した後、千佐都はバックからスマートフォンを取り出し、『木村』の名前で登録してある番号にかけた。すぐに繋がり、はい、という相変わらず陰気な声が聞こえた。
「刑事が婆さんのところに来てた」名乗ることもなく、いきなり千佐都いった。

千佐都はスマートフォンを耳に当てたまま、かぶりを振った。「ううん、違わない」

「連絡待ってるから」千佐都は電話を切り、スマートフォンをバッグに戻した。手のひらに汗をかいている。彼と話す時には、いつも緊張する。

部屋に戻ると、机の上にメモが置いてあった。奥西哲子の堅物な性格を表す几帳面な字で『お客様です。研究室でお待ちです。』とある

中岡は三十代後半に見えた。スポーツマンのように引き締まった体形で、日焼けした顔つきには刑事らしい精悍(せいかん)さがあった。着ているスーツはさほど高級品ではないだろうが、手入れは行き届いている。

いやいや、と青江は顔の前で手を振った。

妥協の産物ではあるが、という本音はしまいこんだ。

中岡は神妙な顔つきになった後、少し身を乗り出してきた。
「では、偶然でない可能性はどうですか。考えられますか」

つまり、といって中岡は唇を舐めた。「人為的に起こされた可能性です」

ああ、と青江は口を開け、首を縦に動かした。今まで考えもしなかったことだ。

「待ってください。自殺でも事故でもないとしたら、あとは……」続きを言葉にするのは躊躇(ためら)われた。

中岡は淡々とした口調でいった後、どうですか、と青江に挑戦的な視線を向けてきた。青江は唇を舐めた。

青江の説明に、中岡は面白くなさそうな顔をしつつも頷いた。「なるほどね。たしかに難しそうだ」