小説を楽しんでプラス

主に私が作成した超短編小説(ショートショート)を記事にします。ほかにお気に入りの小説を紹介します。

小説を読もう「夢をかなえるゾウ 水野敬也」の言葉表現

f:id:sujya:20180607223304j:plain
夢をかなえるゾウ

水野敬也さんの夢をかなえるゾウの表現をまとめただけの資料です。

「おい、起きろや」
聞きなれない声に目を覚ました僕は、眠気で重いまぶたをゆっくりと持ち上げた瞬間、眼球が飛び出るかと思うくらいの衝撃を受けた。

「お前、だれ」
大胆にたずねてみた。すると化け物はふん、と鼻を一つ鳴らして言った。
「だれやあれへんがな。ガネーシャやがな」

布団からゆっくりと頭だけを出した僕は恐る恐る部屋の中を見渡した。

「やっと思い出したようやな」
勝ち誇ったような声がした。ボッとライターに火がつく音がする。ガネーシャは二本目のタバコを吸いだしたようだ。

「これはやな、今からワシの言うことをたった一度でも聞かんかったら、もう一生、何かを夢みることなく、今までどおりのしょうもない人生をだらだら過ごして後悔したまま死んでいきます、いう誓約や。だってそうやろ?ワシが教えるんは、自分が変わるために一番簡単な方法やもん。それでも無理やったら、そら一生無理やろ。せやからワシの言うこと聞かんかった場合は、自分の将来に対する『希望』をな、代わりにごっそりいただくわ」

「きっかけさえあれば」いつも、そう思っている。まだそのきっかけが僕には来ていないだけなんだ、そう自分に言い聞かせていた。……でも本当は「きっかけ」なんてたくさん転がっていて、恥ずかしい思いをしたり嫌な思いをした時がそれだったのかもしれないけど、そのきっかけを、僕は今までずっと素通りしてきたんだ。
だからこのままでは「きっかけ」なんて来ない。それが「きっかけ」であることを決めるのは、今この瞬間の僕なんだ。
目の前のガネーシャは、僕の、そんな思いが見せている幻なのかもしれなかった。

「ほら、ワシ有名やから、見つかるといろいろ面倒やねん。「握手してください」的なこと言われるし」
ガネーシャはそう言いながら、僕が朝食用に買っておいたヨーグルトを何の断りもなく取り出すと、封を開けて言った。
「スプーンある?」
こんなのについていって大丈夫か?

「ほんまにええんやな?」
ガネーシャは僕の顔をのぞきこむようにして言った。
「よろしくお願いします」
不安がないわけではなかった。いや、むしろ不安だらけと言っていいだろう。象の頭、ぽってりとたるんだ腹、勝手に人の家のものを使う、そんな神々しさのかけらもないような神様(自称)に、僕を変えるだけの力があるのだろうか?

「さて、そんならぼちぼちはじめるけど……その前に一つ、ええかな?」
いよいよだ。僕は唾をごくりと飲み込むと言った。「はい。なんでしょう」
ガネーシャは言った。
「神様に教え請うには、何か足らへんよね?」
いきなり要求ですか。

しばらくの間、ガネーシャはあんみつと僕の顔を交互に見合わせていたが、僕の手からスプーンを奪うと、恐る恐るあんみつを口の中に運んだ。
「……うま」
ガネーシャの手の動きは次第に早くなり、スプーンはあんみつとガネーシャの口の間を何度も素早く往復した。
「なんやこれ、めっちゃうまいやん。めっちゃうまいやん!」

ガネーシャは玄関で立ち止まると、床を見下ろして言った。
「靴、みがけや」
「は?」
「せやから、靴、みがけ言うとんねん」

「あ、あの、靴みがきなんて、何か意味あるんですか?」
ガネーシャは大きなため息を一つつき「自分、全然わかってへんな」と言って、面倒そうな顔をして話し出した。
「自分、イチローくん知っとる?」
イチロー?

「ところで聞くけど、自分の商売道具ってなんや?」
「うーん……」
「靴や! ちゃうか、話の流れからしたらここは確実に靴やがな。アホかお前は」

「正直に言わせていただくと、やっぱり、靴をみがいたからといって成功するとは思えないんです。お金持ちにだって、だらしない人はいるでしょうし、もっと他の課題ないですかね」
 するとガネーシャはにらむような目つきで僕を見た。
「自分な」
「はい。なんでしょう?」
「今まで、自分なりに考えて生きてきて、それで結果が出せへんから、こういう状況になってるんとちゃうの?」
「そ、それは……」
「ほなら逆に聞きたいんやけど、自分のやり方であかんのやったら、人の言うこと素直に聞いて実行する以外に、何か方法あんの?」
うぐぐ……。
「それでもやれへんていうのは、何なん? プライド? 自分の考えが正しいに違いない、いうプライドなん?」

「保証したるわ。自分、このままやと2000パーセント成功でけへんで」
僕は思わず声を荒げて言った。
「な、なんでそんなこといい切れるんですか?」
「そんなもん、自分が『成功せえへんための一番重要な要素』満たしとるからやろがい」
「何ですか?成功しないための一番重要な要素って」
「成功しないための一番重要な要素はな、『人の言うことを聞かない』や」

「あの……」
「なんや」
昨日に引き続き、僕はガネーシャに疑問をぶつけてみた。
「靴みがきなんかで、僕は本当に変われるのでしょうか?」
するとガネーシャはびくっと眉毛を動かした。
「またそれかいな。ほなどないしたら自分は変われるっちゅうんや?」
「何て言うんでしょうねぇ、こう、成功の『秘訣』みたいなものを教えてもらえれば……」
するとガネーシャはしばらく考えてから言った。
「たとえば、こういうのん?『成功するには自分が働くのではなくて、お金に働かせなさい』みたいな」
「あ、そういうのです。ぜひ教えてください」
「いや、教えるもなにも、ここに書いとるで」
ガネーシャは本棚から一冊の本を取り出してきて僕の目の前に置いた。最近巷で売れていると評判のビジネス書だった。書店の棚にずらりと並べられていたので勢いで買った覚えがある。
「このページ見てみ」
「あ……」
「付箋貼ってるやん」
僕は赤くなった。確かにお金持ちになる方法が書かれたその本には「お金に働かせる方法」がはっきり書かれてある。うなだれる僕の肩に長い鼻をぽん、と置くとガネーシャは言った。
「『秘訣』を知りたい、いうことは、要するに『楽』したいわけやん?」

「ええか?お金いうんはな、人を喜ばせて、幸せにした分だけもらうもんや。せやからお金持ちになるんは、みんなをめっちゃ喜ばせたいやつやねん」

「つまり、こういうことが言えるわな。『ビジネスの得意なやつは、人の欲を満たすことが得意なやつ』てな。人にはどんな欲があって、何を望んでいるか、そのことが見抜けるやつ、世の中の人たちが何を求めているかが分かるやつは、事業始めてもうまくいく」

「よし、次の課題はこれや。『人が欲しがっているものを先取りする』ええか?とにかく誰かに会ったら『この人が欲しがっているものは何か?』ちゅうことを考えながら接してみい。そして欲しがっていること、求めていることをできるだけ与えるようにこころがけるんや。分かったか?」

「笑わせる、いうんは、『空気を作る』っちゅうことなんや。場の空気が沈んでたり暗かったりしても、その空気を変えられるだけの力が笑いにはあるんや」

「スティーブン・キングくん知っとる?」
「あ、はい。知ってます。小説家ですよね。『スタンド・バイ・ミー』という映画観ました」
「ま、あの子も最近ではなんかあったらすぐ映画化されよるまで成長したんやけど、彼ね、小説家になる前は、学校の先生やってん」
「そうですか?」
「せや。でも小説家になるために、学校から帰ってけたあととか、週末とか、ずっと小説書いとつたんや。そうやって自分の時間を自分でコントロールして、今の地位築いてんねん。ワシは自分にそういうのを見習って欲しいのよ」
「は、はい」

「自由な時間は自分が成功するために使う一番大事な時間」
確か、ガネーシャはそんなことを言っていたな。
僕は開き直って、この時間を有効に使う方法を考えてみることにした。
ノートとペンを取り出して、思い付くままに文字を走らせてみる。僕はこれからどうしていきたいのだろうか。そもそも、どうして変わりたいと思ったのだろうか、そんなことを書きながら考えた。

仕事で毎日忙しくしている僕たちにとって、何もしない時間を持つ、というのはそれだけで意味のあることかもしれない。