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人生も後半戦

人生も後半戦になったら、これまでの生き方に後悔することもあります。しかし、後悔しても仕方ない。この先楽しく生きるためにいろんなことに挑戦

小説を読もう「空飛ぶタイヤ 池井戸潤」の言葉表現3

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空飛ぶタイヤ 上下合本版 池井戸潤

小説が好きで小説家の表現の仕方をまとめただけの資料です。

「そういえば、横浜の事故は大丈夫ですか」と。
面を上げて専務を、一瞥した井崎は、テーブルの反対側にいる狩野と三浦を窺った。

ぽんと肩を叩かれて紀本には激励さるたものの、釈然としないまま、いま井崎は稟議書を作成する前の資料を眺めていた。

そこで言葉を切り、榎本は数秒間沈黙した。
「実は今日時間を頂戴したのは、その井崎先生に折り入って個別案件に関する意見をききたかったからなんですわ」

榎本はずいと体を乗り出す。「それと、ここだけの話にしてもらいたい」
「なんだよ、急に」

戸惑い、中途半端な笑いを浮かべた井崎の表情は、次の榎本の言葉で微妙に歪んだ。
「ホープ自動車から内部告発があった」

「まさか。聞いてない」
その目を、榎本はこれ以上ないほど真剣に見つめる。真偽を見抜こうとする目だ。

忖度(そんたく)するような沈黙の後、「いずれにせよまだ少し時間がかかる」と榎本はこたえた。

榎本はそういうと右手をひょいと上げ、喫茶店の伝票を持って立ち上がった。心のさざ波を押さえつけられぬまま後を追って立ち上がった井崎に、榎本はいった。
「悪いことはいわない、できることならホープ自動車からは手をひけ、井崎

三浦の目が、抜け目無く動く。
「なにがおっしゃりたいのか、よくわからないんですけどね。具体的にどういうことか、話してくれませんか」
だが、井崎はあえて話を打ち切った。

咀嚼(そしゃく)するだけの間を置いた三浦は、冷ややかだった。
「あなたはまだ若いね、井崎さん。理想と現実は違いますよ。いずれわかると思いますけどね。これは私のいうべきことではありませんが、巻田専務の意向に添う形で早くまとめていただいたほうがあなたのためだと思いますね」

「もし、その内部告発が表に出た場合どうなる」
井崎に問うというより、自問するかのように紀本はいった。

紀本の表情はひび割れしそうなほど凍り付いた。
「井崎、君はもう一度、その編集者に内部告発の内容を確認してくれないか」

「なんとしても口を割らせろ」
唾を飛ばして紀本はいった。

くそっ
乱暴に受話器を叩きつけ、憤然として腕組みする。

「ちょっと待ってください」
もうすでに結論が出たという言い方に、赤松は頬を震わせた。

チェックしていた書類から顔をあげた沢田は、デスクの前に立った体脂肪率三十パーセントの男に目を据えた。
「なんだって?」
「壊れた部品を返してくれと」

「で、そのときどうした」
宮代は当時のことを思い出したか、くすりと笑った。

「そもそも、なんで返せといってるんだ、相手は」
「そりゃあ、再調査でもするつもりだからだろう」
電話の向こうで、室井が考えこむのがわかって、沢田は少々溜飲(りゅういん)を下げた。

にやりと笑いながら答えた沢田に、電話の向こうから舌打ちの音が聞こえた。

宮代は皺の寄ったのどの、あたりをごくりと上下させた。「引き下がったんですか」

返事の代わりに、門田の奥歯が動き、一旦一文字に結ばれた唇から意を決したように言葉が出てくる。
「社長、何か手伝うこと、ないっすか」
「ありがとうよ」

汚れた作業服を着た谷山は、出席者の一番端でテーブルの上に帽子を置いて話をきいていた。

毅然として赤松は首を振った。ぐっと唇を引き絞り、油断すると吹き上げてきそうな怒りを、堪えるのに苦労した。「このままでは終わらせない。必ずはっきりさせるよ」

ため息をついた沢田の態度に何か感じ取り、北村は眉を上げた。

沢田は内心、天を仰いだ。

一瀬は、ぐっと顎を引いて腕組みした。テーブルの上にプリントアウトした沢田の書類が置いてあり、視線はその上に釘付けになったまま、動かない

「理由はなんですか」
沢田はきいた。
一瀬は、ちらりと室井と視線を交錯させた。さてどんな誤魔化しが飛び出すかと身構えた沢田に、小柄な一瀬は薄くなった髪を興奮で朱色に染めていった。

隣にいた宮代がぎゅっと目を閉じ、腕組みをしたまま動かなかった。その頬が小刻みに揺れているのは、歯を食いしばっているからだ。

「群馬の事故のことを調べてたぞ、赤松は。自分とこの事故と何か関係があるんじゃないかってな」
室井は表情を消し、不安そうに眼鏡を中指で上げる。
「関係なんかないさ」

激しく、赤松は懊悩(おうのう)した。
そのとき鳴り出した事務所の電話が、赤松を思念から引き戻した。

「ああ、こちらこそ、どうもありがとうございました」
赤松は受話器を握りしめて背筋を伸ばした。

室井のパソコンが放つ光が、小牧のワイシャツにまだらの模様をつけている。

電話をかけてきた小牧に、「開いた」と応えた沢田は考えがまとまらないまま長い息を吐き出した。

「おいおい」
電話の向こうで小牧がのけぞるのが目に見えるようだ。「えらく簡単にいってくれるじゃねえか。それがどういうことかわかってんのか」