小説を楽しんでプラス

主に私が作成した超短編小説(ショートショート)を記事にします。ほかにお気に入りの小説を紹介します。

勘違いだったバレンタインチョコ

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 中本家は夕食を終え、裕一郎はこたつに入り写真を見ながら目尻を下げていた。妻の佳子は夕食の片付けを終わらせて、裕一郎の好きなブラックコーヒーを持って裕一郎の前に座った。

「明日は陽菜の結婚式だな」
 裕一郎はそういってコーヒーを口にした。
「そうですね、早いですね」
 佳子はコーヒーカップを両手で持ち、手を温めながら言った。
「あなた、何見てるんですか」
 裕一郎の見ている写真を覗きこんだ。
「陽菜の赤ちゃんだった頃の写真だよ。ほら、可愛いぞ」
 裕一郎は見ていた写真を佳子の前へとすべらせた。
「あら、ほんと可愛いわ。この頃は、あなたの髪の毛もふさふさだったのね」
 佳子は写真を手に取り、口元が緩んだ。
「もしかしたら、来年には陽菜の子供が見れるかもしれませんね」
「そうだな、そしたら俺たちは、ひいお爺ちゃんとひいお婆ちゃんになってしまうんだな」
「もうそんな歳ですね」
「ところで、明日は2月14日だろ。バレンタインディに結婚式するんだな」
「そうですね、でも最近の子はバレンタインディに興味ないようですよ。陽菜も言葉くらいは知ってると思いますけど、私たちの頃のような盛り上がりはないみたいです」
「そうだな、最近は聞かなくなったな。俺たちの頃は女の子からの愛の告白を待つ特別な日だったけどな」
「そうですね、愛の告白だけでなく、知り合いの男性にも贈るような義理チョコがあったり友チョコや自分チョコなんかもありましたね」
「だんだんと、若い人の人つきあいが希薄になったのとラッピングやチョコレートの廃棄のゴミ問題なんかもあって、バレンタインディは過去のものになってしまったようだな」
「そうですね、ちょっとさびしい気はしますけど」
「そうだな、俺たちがつき合うようになったのも、君がバレンタインディに告白してくれたからだもんな」
「フフフ、今でもそう思ってるんですか」
 佳子は笑いながらコーヒーカップで顔を隠した。
「何で笑うんだよ。君が俺にチョコレートを渡して告白したんじゃないか」
「チョコレートは渡しましたよ。でも、告白はしてませんよ。あれは義理チョコだったんですよ」
「義理チョコ? あの頃に義理チョコなんかあったか」
「ありましたよ。あなたが知らなかっただけですよ」
「しかし、あれは手作りだったよな」
「そうですけど、本命の人に作ったチョコレートの残りをハート型にして袋に詰めただけですよ。あなた以外にも高木君や山岡君にも渡しましたよ。あの時、本命チョコは山下先輩に渡したのよ」
「全然知らなかった。高木と山岡は義理チョコとわかってたのかな」
「当たり前でしょ。あなただけですよ本命と勘違いしてたの」
「あの時、俺の事が好きなわけじゃなかったのか」
「でも、次の日からあなたの態度が変わって、デートに誘われた時は嬉しかったですよ」
「俺は君から告白されたと勘違いして、ひとりで舞い上がってたわけか。君をデートに誘ったりしてバカみたいだな。恥ずかしいよ」
「でも、あなたが勘違いしてくれてよかったですよ。今はこんなに幸せなんですから。あなたが勘違いしてくれてなかったら、明日の陽菜の結婚式も無かったわけですからね」
「そりゃそうだな。やっぱりバレンタインディはいいもんだな」
「そうですね、またバレンタインディが復活してほしいですね」
「当日はワクワク、ドキドキして楽しかったな」
「そしたら、明日はあなたに久しぶりにバレンタインのチョコレートを贈ります。今度は義理ではなくて感謝の気持ちをいっぱい込めておきますね」