小説を楽しんでプラス

主に私が作成した超短編小説(ショートショート)を記事にします。ほかにお気に入りの小説を紹介します。

幸福度を上げる神様 倦怠期

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 ① 西地区神様VS東地区神様
 
 西地区の神様は天空タワーのベンチに腰掛けて、眼前に広がる景色を眺めていた。
 先日、夫婦仲が冷めて幸福度が下がっていた中年男を助けたことで、本部からお褒めの言葉を期待していたが、もらった言葉は厳しいものだった。
「幸福度を一人上げたくらいで喜んでいてはダメだぞ。西地区の幸福度を2割上げるには、休むことなくドンドン活動しないと追いつかない」
 その言葉を聞いて、ため息しか出なかったが、確かに西地区全体は低空飛行のままだ。言われた通りにやるしかなかった。
 ここ天空タワーにいるのは、幸福度を上げる次のターゲットを探す為だ。部屋でリストを見ながらターゲットを探すより、天空タワーで景色を眺めながらの方が気晴らしになると思ってやってきたのだ。しかし、気晴らしにはなっているようだが、ターゲットを見つけることは難しそうだ。
 山を眺めては、あの山に登りにいこうかと考え、海に浮かぶ船を見て、あの船に乗ってみたいなと思い、のんびりとした時間だけが過ぎていった。

「おはようございます」
 背後から寝ている子供を静かに起こすような小さな声が耳元で聞こえたので振り返ると東地区神様が立っていた。
「あー、東地区じゃないか、久しぶりだな、会議の日以来かな」
「そうですね、こんな所で何してるんですか」
 東地区神様は興味があるわけでもなかったが、そう訊いてから西地区神様の横にゆっくりと腰掛けた。
「いやー、この間の会議の後、呼び出されて西地区の幸福度が低すぎるって怒られたんだ。早急に西地区の幸福度を2割上げないと俺は神様クビだよ」右手を横にして首に当てた。
「噂は聞いてますよ。大変ですね。ここに幸福度を上げるターゲットでもいるんですか」
「いや、ターゲットを誰にするのか、ここで探しているんだ」
「なるほど、ここからだと西地区がよく見えますからね」東地区神様は眼前に広がる景色を見渡した。
「東地区は何故ここに?」
「ある男を追ってここまで来たんですよ」チラッと左の方に視線をやった。
 西地区神様が、その視線の先に目をやると、そこには手摺に両肘を置き、手の甲に顎を乗せ腰を折って立っている若い男の姿があった。窓から景色を眺めているようだが目はうつろだった。今この場にいるのは神様二人とこの若い男一人だけだった。
 東地区神様が追っているということはターゲットなのだろうか、ぼんやりと景色を眺めている男からターゲットらしさが滲み出ている。幸福度の落ちた人間は、らしさを出しているもので、すぐにわかるものだ。目に輝きがなく肩にはおもりが乗っかったようで顔色は青く白い。さぼってばかりの西地区の神様でもわかるくらいだ。それに若い男がこんな所に一人で来ているのは普通ではない。
「人間と直接会ったりするのか」
「いや、近くで観察することがあっても直接会うことはないですね。一応、直接会うのは禁止ですから」
 東地区神様はそう話してる間も若い男から視線を外さなかった。
「俺は、本部から西地区は直接ターゲットに会ってでも幸福度を上げろって言われてるから、直接会ってるんだけど」
「ふん、本部が言いそうですね。すぐに結果をほしがりますからね。でも、結局、それだとなかなか進まないでしょ。休めなくなるんじゃないですか」
「そうそう、ペースが遅いと怒られたところなんだ。休みなくやれって言われたよ」
「僕は直接会うのは良くないと思いますけどね。人間が神様の存在を本当に信じてしまうと、神頼みばっかりして努力しなくなりますからね。僕たち神様は、人間が自分自身の力で幸せになったと思わせておかないと、神様、神様とお願いばかりされて忙しくなるだけですよ。どんどんエスカレートしますよ」
「じゃあ、東地区はどうやって東地区の幸福度を上げてるんだ」
「僕の場合は、偶然ヒントを見つけるようにしたり、ためになる人に会わせたり、夢で気付かせたり、あくまで人間が自分で気付いて自分の力で幸せになったようにしてますね」
「へえー、例えば?」
「そうですね、告白出来ないでウジウジしているカップルとかいるじゃないですか、そんな二人の前に仲の良いカップルを見せつけて触発したりしますね。仕事で上手くいかない人間や人間関係で悩んでたりしたらテレビや映画、読書なんかで気付かせるようにしたり、優秀でポジティブな人間に会わせるようにもっていったりして刺激させたりしますね」
「へぇー、回りくどくて面倒臭そうだね」
「確かに、面倒臭いと思う時もありますね。中には鈍感な人間もいますしね。これだけヒントを与えてるのに何で気付かないんだとイライラすることばかりです」
「そんな面倒臭いこと、俺には無理だな」
「フン、それをしないと神様失格ですよ」東地区神様は鼻を鳴らし、右の口角だけ上げて言った。
 西地区神様は、後輩のくせに、と思いながらも、グッと堪えて笑みを浮かべた。
「厳しいね」
「神様ですからね」
「あっそう。で、あの男はどうするわけ」西地区神様は若い男に顎を向けて言った。
「あの男は僕のターゲットじゃないんです。僕のターゲットを幸せにする為に必要な人間か調査してるんです」
「ターゲットじゃない人間の調査までしてるのか」
「そうですよ、周りの環境、特に人間関係や異性関係は幸福度を大きく左右しますからね。実は二年前、あの男が僕のターゲットを幸せにしてくれる相手だと思って恋愛するように仕向けたんです。しかし、昨日別れたみたいでね。僕は二人が幸せになれると見込んでたんですが、見込み違いだったようで。この先僕のターゲットが、あの男とこのまま別れた方が幸せなのか、それともやり直した方が幸せなのか判断する為に調査してるんです」
「やっぱり、回りくどいし面倒くさいな。俺には向いてないな、神様失格だ。ハハハ」
 西地区神様は、椅子の背もたれに体をあずけ、両手を後頭部で組み大きな声で笑い始めた。
 あまりにも大きな声なので、東地区神様は西地区神様に向かって人差し指を立て、口にあてた。
「男に気付かれますので注意して下さい」
「ふん、大丈夫だよ」
「あっ、それからあの男は西地区の人間なんですよ」口に当てていた人差し指をそのまま男の方に向けた。
「えっ、じゃあ、あいつを幸せにすれば西地区の幸福度を上げることができるのか」
「そういうことになりますが、今は僕のターゲットから別れを告げられて幸福度は下がってるでしょうね」
「じゃあさ、君のターゲットと、よりを戻せば、あの男の幸福度が上がるよね」西地区神様は目尻を下げながら、東地区神様の肩に手を置いた。
 東地区神様は正面を向いたまま西地区神様の話を無視した。
「なぁ、頼むよ」西地区神様は東地区神様の肩に顎を乗せて、東地区神様の横顔をみつめた。
「はぁ」東地区神様はため息をつきながら「わかりました、でも」と言って西地区神様の顔を見た。
「何?」
「やっぱり自分でやらないといけないと思うんです」男の方に視線を送りながら言った。
「俺があの男の幸福度を上げるのか」
「当たり前じゃないですか。あの男は西地区の人間なんですから」
「けど、女にふられたくらいで幸福度下げるなよな。俺達の身にもなってくれよ。これじゃあ、きりがない」
「些細なことで幸福度が下がらないように、担当地区の人間の心を育て強くするのも我々の仕事です。それを怠ってると、こういう事になります」
「ハイハイ、先輩に説教かよ」西地区神様は椅子にもたれ足を組んで東地区神様の肩に手をまわし睨み付けた。
 東地区神様は意に介せず、眼前の景色に視線をやったまま話を続けた。
「彼の名前は太田貴史。これが彼についての資料です」鞄からファイルを取り出した。真っ黒で赤く㊙️のマークだけがついてあった。
「へぇ、この資料どうしたの」
「本部から取り寄せましたけど」
「そんなこと出来るの」
「出来るのって当たり前じゃないですか。本当に神様の資格持ってるんですか」
「後輩のくせに」西地区神様は眉間に皺を寄せて舌打ちした。
 東地区神様は眼前の景色を見たまま話を続けた。
「で、この資料は西地区の人間の資料なので、本部からあなた宛にメールが届いてるはずです。太田貴史についての資料を東地区に送付してもよいか、といった内容のメールです。この資料が僕の手元にあるということは、あなたは、送ってもよいと承認しているはずなんです」
「あー、そう言えば、本部からメールが来てたけど中身確認しないで承認のボタン押したわ。ハハハ、多分それだな」
「はぁ、多分それでしょ」東地区神様はあきれて言った。
「まぁ、俺が承認したおかげだよな」
「そうですね、じゃあ、この資料使って下さい」資料を西地区神様の膝の上に置いた。
「サンキュー、これ見てから、ちょっと男のとこに行ってくるわ」
「えっ、直接話すんですか?」
「みんなは禁止だけど、西地区は特別に許されてるからね。じゃあな」西地区神様は立ち上がり、東地区神様の頭をポンと資料で叩いて席を離れた。
「はぁ」東地区神様はため息をついてエレベーターへ向かった。
 西地区神様が邪魔しなければいいが、と思い、太田貴史が西地区であることを教えてしまったことを後悔しエレベーターのボタンに手をかけた。


 ② 別れの電話

 太田貴史は、ビール片手にお笑い界の大物が司会をつとめるバラエティー番組を観て肩を震わせていた。よくこれだけ人を笑わせることが出来るなと感心していた。俺にもこれくらいの話術があれば、もっとモテるようになるのにと、わけのわからないことを考えていた。
 そんなくつろぎの時間を邪魔するようにスマホが鳴った。舌打ちしながらスマホの画面を見ると中野有紀からの電話だ。
「なんだよ、せっかく面白いとこなのに。俺がこの番組が気に入ってることくらい知ってるだろ」
 中野有紀は二年前から貴史と付き合っている彼女だ。貴史は、明日デートで会うんだから話しがあるなら、その時にしろよと思った。
「はい、何?」
 貴史は低い声で電話に出た。
「貴史、ごめんなさい、明日のデート、行けなくなっちゃったの」
「えーっ、どうしたの、何か急用でも出来た」
「うーん、そうじゃないの。言いにくいんだけど、あたしたち、そろそろ終わりにした方がいいかなと思ってね」 
「終わりにするって、別れるってことか」
「まぁ、そういうことだけど」
「何でだよ、俺、何か悪いことしたか」
「いや、そうじゃないけど、トキメキが無くなったっていうか、デートしてても楽しくなくなったっていうか、よくわかんないけど」
「俺は、嫌だよ。有紀と別れるなんて考えられないよ」
「貴史も最近、楽しそうじゃないよ。貴史も、きっと無理してるよ。お互いの為に別れた方が良いんだよ。だからごめんね、じゃあ、元気でね」
「お、おいっ、ちょっと」
 電話が切れた。テレビからの笑い声も耳に届かなくなっていた。
 電話をかけ直してみたが、留守電になるだけだ。何度か挑戦したが、ついに電源が切られた。貴史はテレビの電源を切り、床にうっつぶした。「どういうことだよ」
 こうして、二年間付き合っていた太田貴史と中野有紀は別れてしまった。
 貴史は電話で一方的に、あまりにもあっさりしていた有紀に少し腹を立てた。
 浮気したり、有紀をほったらかしにして遊び回ってたなら、フラれても仕方ないと思うが、そんなことはしていない。貴史はフラレた理由もわからず、悲しみと悔しさで頭がいっぱいになり一睡も出来ないまま朝を迎えた。
 次の日、貴史はデートの予定が無くなり何もする気になれなかった。家にいても気分が滅入るだけなので、行くあても無く夢遊病者のように街に出た。
 風は少し冷たいが、皮肉にも、天気がよくデート日和だ。「有紀は何故別れたかったんだろう」貴史の頭の中はその事ばかりになっていた。気が付けば、天空広場に立っていた。ここは貴史と有紀が初デートした場所だ。

 二人が出会ったのは、貴史の職場に有紀が新入社員で配属された時だった。当時、新入社員の教育係だった貴史は、有紀と話す機会も多かった。
 有紀はおとなしい性格だったが、真面目にテキパキと仕事をこなし、新入社員の中でも信頼出来る存在になっていった。そんな有紀に貴史の心は、少しずつ引かれていった。
「中野さんは彼氏とかいるの」
「いえ、いません」
「天空広場に美味しいラーメン屋がオープンしたんだけど、一緒に行ってくれないかな?」
 貴史は有紀に好意を寄せてからデートに誘うまで時間がかかっていた。同じ職場でフラれた時の事を考えると告白する勇気が持てなかった。ある日、学生の頃からの親友宮下に相談すると「告白する前に他の男と付き合いだしたら、お前後悔するぞ」と言われて思いきって誘った。そして告白し付き合うようになった。
 付き合うようになってから毎日が幸せだった。
「来週から上映する映画だけど、有紀の好みじゃないかな? 一緒に行こうか」
「あの山上からの景色を有紀に見せてあげたいんだ。今度の休みに行こうよ」
「貴史、美味しい肉が食べたいって言ってたでしょ。あたし、良さそうな店見つけたよ」
「貴史に似合いそうな服、見つけたよ」
 しかし、ここ最近は
「今度の休みはどうするの。どっか行く」
「どっかって言ってもなぁ。行きたいとこ、特に無いしな」
「とりあえず、ブラブラしてみる」
「ブラブラしても疲れるだけだしな。俺仕事で疲れてるんだよ。それくらいわかってくれよ」
 こんな会話しか出来なくなっていた。だんだんと終わりが近づいてきていたんだが、貴史は気付いていなかった。いつまでも恋人の関係が続くものだと、勝手に思っていた。

 貴史は天空タワーに上ってみようと思った。あの日のドキドキ感と楽しかった事を思い出して、少し切なくなった。
 エレベーターを上りながら、初デートの日、ここで有紀の手を初めて握ったことを思い出した。
 あの時、エレベーターで一緒になったアベックがイチャイチャしているのに触発されていなければ手を握ることは出来なかっただろう。
 そんな思い出に浸っているとエレベーターは展望台に到着した。天空と言うほど高いタワーではないが、景色は綺麗だ。町並みの奥にそびえ立つ山は少し華やかな色になってきている。反対側を見ると船が太陽に反射してキラキラと光り目に刺さる。
 平日の午前中ということで人は少ない。貴史以外には中年の男が二人でコソコソと会話しているだけだった。不景気で職を失いフラフラしているのだろうなと思った。平日の午前中にここに来るのは何かを失って落ち込んでいる者ばかりだなと思った。彼らもここからの景色を見て、沈んだ気持ちを晴らそうとしているのだろう。
 平和でのどかな景色だが、そんな景色を見ても貴史の気持ちは晴れそうもなかった。


 ③ 二年前の中野有紀

 中野有紀は仕事の帰り、同僚の田辺美樹と喫茶店にいた。
「有紀は太田さんと付き合ってるって噂だけど、本当なの」
 田辺美樹に訊かれて飲みかけたオレンジジュースにむせてしまった。
「ゴホッ、ゴホッ、ち、ちがうよ、仲良くはしてもらってるけど、付き合ってないから」顔の前で小さく手を振った。
「でも太田さんは間違いなく有紀のこと気に入ってるわよ。誘われたりしてないの」
「それがね……、今度の休みに誘われてるの。天空広場に美味しいラーメン屋がオープンしたから食べに行かないかって」
「で、OKしたの?」
「まぁ、空いてたしね」
「うわーっ、やっぱり付き合ってるじゃない」
「ラーメン食べに行くだけだから」
「いや~、絶対、その後、告白されるわね。『天空タワーに上ってみないか』なんて言われて、そこで『有紀さんのことが好きです。俺と付き合ってくれませんか』なんて言われるんじゃない」田辺美樹は自分のことのように嬉しそうな表情で両手を胸の前で組んで、視線はどこか上の方に向いていた。
「それはどうかわからないけど、あたしなんかと付き合っても面白くもないし、それに付き合っても上手くやっていく自信ないわ」
「なんで? 太田さんのこと好きじゃないの? 前は太田さんのこと気に入ってたじゃない」
「太田さんは好きだけど、うまくいかなくなった時のことを考えると不安なの」そう言って有紀は俯いてしまった。

 有紀は、以前、付き合っていた彼氏に二股をかけられていた。その男には別に本命の彼女がいて有紀は遊ばれていた。恋愛するのが初めてで純粋な有紀は、全く疑うことなく浮気男に尽くしていた。
 しかし、ある日知らない女から電話がかかってきた。女は気が狂ったように受話器の向こうで怒鳴っていた。何を言われたのかは有紀の記憶には残ってなかった。ショックで記憶から消してしまったのだろう。
 女からの電話が切れた後、浮気男に電話をしたら、彼女がいるから、これ以上付きまとわないでくれと言われた。後ろから、女の怒鳴り声が聞こえていた。
 有紀は電話を切って、すぐに浮気男の電話番号とメールを削除して、思い出の品も全て処分した。
 有紀の家庭も複雑だった。両親は父親の浮気が原因で、有紀が中学生の時に離婚していた。
「ごめんね、あなたには罪はないのに、こんな寂しい思いをさせてしまって。でもお父さんとお母さんは一緒にいても、お互い幸せになれそうにないの。これからあなたは私が守るから、あなたには幸せになってもらいたいから」母親は有紀にそう言って詫びた。
 しかし、母親は有紀が高校生の時に乳ガンで亡くなってしまった。その後は母方の祖父母と一緒に暮らした。
 有紀は男の人を信じるのが怖くなっていた。彼氏が出来ることや結婚して家庭を作ることに不安と恐怖を感じていた。自分は彼氏が出来ても、結婚しても幸せにはなれないんじゃないかと思っていた。
 しかし、その反面、幸せそうな家庭を見ると羨ましく思い、いつかは自分もこんな家庭を作るんだ。両親とは違う幸せな家庭を作るんだとも思っていた。


「そんなの心配してたら、何にもできないよ。人生は一度きりだし楽しまなきゃ」
 いつもポジティブな田辺美樹の言葉に、有紀はいつも元気をもらっていた。今日も少しは前向きになれたが、もし太田貴史に告白されても付き合ってもよいのかは、まだ悩んでいた。
「はぁ」
「何、ため息ついてんのよ。好かれることは幸せなことじゃない。ちょっとトイレ行ってくるね」
 田辺美樹がトイレにたってから、有紀はふと、隣の席に座る家族に目をやった。三十歳位の夫婦と小学校低学年位の男の子の家族だ。有紀はその家族の会話に耳を傾けていた。
 その後田辺美樹がトイレから帰ってくると
「美樹、いろいろ有難う。あたし太田さんと付き合うことにするわ。太田さんが告白してくれるかわからないけど、告白されなかったら、あたしから告白するわ」
「えっ、急にどうしたの」
「うん、やっぱり幸せな家庭に憧れるから、美樹の言う通り心配してもしかたないでしょ。だから、頑張ってみる。好きな人のために生きるのは幸せでしょ」

 二人の会話を後ろの席で聞いていた東地区神様は小刻みに頷いて、小さく手をたたいた。
「よしよし、順調だな」



 ④ 西地区神様と太田貴史


「どうも、良い天気で景色が綺麗に見えるし気持ちが良いですね」西地区神様は太田貴史の横に立って声を掛けてみた。
 貴史は怪訝な表情をしていたが「そうですね、天気が良いと気持ち良いですね」とそっけなく返した。
「実はわたしは神様なんですよ。今日はあなたの幸福度を上げようと思って来たんです」
「フン、神様ですか? それは凄いね」貴史は鼻を鳴らし、この中年男は会社をクビにでもなって頭がおかしくなったんだなと思って、バカにしたように返した。
 西地区神様は貴史の態度にムッとした。この男に自分が神様であることをわからせて「お願いします助けて下さい」と言わせようと思い、いきなり本題を話しはじめた。
「あなたの名前は太田貴史さんですよね。昨日、中野有紀さんにフラれて落ち込んでいるんでしょ。なんとかしてほしくないですか」西地区神様は見下すように言った。
 貴史はビックリして、西地区神様の顔を睨みつけた。「なんで知っている」
「ふふふーん、わたしは神様ですからね。なーんでも知ってますよ」
「じゃあ」と言って、貴史はじっと西地区神様の目を見た。
「うっ」西地区神様は身構えた。
「有紀は何で俺と別れたんですか。他に好きな男でも出来たんですか。神様なら教えて下さいよ」貴史は西地区神様の胸ぐらでも掴みそうな勢いで訊いた。
「いや、それは今調査中でして、相手の中野有紀さんが違う担当地区のもので、今、そちらと連絡をとりあってるところです」西地区神様は両手のひらを貴史の方に向けて気持ちを抑えるようにした。
「担当?」
「ええ、わたしは西地区担当であなたの担当なんですが、中野有紀さんは東地区になりますので東地区の神様が担当しています」
「東地区担当の神様が別にいるわけですか」
「まっ、そういうことです。今は東地区担当の神様が中野有紀さんについて調査してますので、その結果待ちですね」
「さっきそこに座っていた人ですか?」貴史はベンチに視線をやった。
「あっ、はいそうです。眼鏡をかけていた男です」 「東地区担当の神様にも会わせて下さい。話が聞きたいんです」
「いや、それは……、ちょっと難しいですかね」
「何故ですか? 俺を幸せにしてくれるんじゃないんですか」貴史は唾を飛ばし声が大きくなった。唾が西地区神様の頬にかかった。
「まぁ、落ち着いて下さい。東地区担当の神様は、ちょっとシャイなもので、人間には会いたがらないんです」
「そんなぁ、神様のくせに、そんなワガママ言ってる場合じゃないでしょ。あなたみたいに積極的にやらないとダメだと思いますけど」
「そうですね、東地区の神様は経験が浅いもので、ご迷惑をかけて申し訳ありません。わたしから注意しておきます。さっきもサボらないで調査するよう注意したところです。なので、今は待って下さい。わたしに任せて下さい」
「わかりました。あなたは信頼出来そうです。信用して待ちます」貴史はそう言って、息を吐いた。
「はい、今は焦ってもしかたありません」西地区神様は口角をくいっと上げた。
「俺は西地区でよかったです。東地区の神様は、いい加減な神様なんですね。有紀は東地区だったがために、こんな事になったんじゃないでしょうか」
「なんとも言えませんが……、一応、東地区の神様もわたしたちの仲間ですから、人間を不幸にして放っておくような神様ではないと信じています」
「あなたはさすがですね、仲間を思いやり信頼するところがカッコいいです」
「まぁ、わたしに任せておいて下さい」西地区神様は胸を拳でドンと叩いた。


 ⑤ 別れの理由

「有紀は、何故別れようと思ったのでしょうか」貴史はベンチに腰掛け、ひとり言のように眼前の景色をうつろな目で眺めながら、そう言った。
「わたしは、これから東地区の神様に会いに行ってきます。何かわかったかも知れませんし、東地区だけに任せておくと頼りないのでね」西地区神様は貴史の肩をトントンと軽く叩き立ち上がった。
「あっ、はい、お願いします」貴史は立ち上がって西地区神様の右手を両手で強く握り頭を下げた。
「元気を出して下さい。暫くここで待っていて下さい」西地区神様は貴史の肩に左手を添えた。

  
「東地区よ中野有紀が別れようとした理由はわかったのか」
「まぁ、なんとなく検討はつきましたね」
「なんとなく? 頼りないな。大丈夫かよ」
「二人には倦怠期が来たようですね。それを感じた中野有紀は過去の苦々しい経験から、また傷つくのではないかと怖くなったってことですかね」
「はぁ、倦怠期くらいで、面倒臭い女だな」
「まぁ、人間はみんな面倒臭いものですよ」
「倦怠期みたいな些細なことで落ち込まないように、心を強くするのも神様の仕事じゃなかったのかよ」
「まぁ、そこは僕の至らなかったところです」右眉をピクリと上げた。
「それなら、過去に行って二人が付き合うのを止めさせたらいいんじゃないか。そしたら二人共、今みたいに別れて落ち込まなくてすむだろ」
 東地区神様はそれを聞いて眉間に皺を寄せ西地区神様を睨み付けた。
「それ、どういうことですか」
「そんな怖い顔するなよ。二年前、お前が二人を幸せにしようと付き合わせた努力はわかるけど、今を見る限り、付き合ったことが失敗だろ。だから過去に戻って取り消した方がいいんじゃないかなと思っただけだよ」
「あなたは、これまでにも過去を変えてきたことがありますか」東地区神様の眉間の皺が一段と深くなり顔が険しくなった。
「いや、変えたことはないけど……、挑戦したことはあるかな」後頭部を右手で掻きながら返した。
「過去を変えることは絶対にやってはいけないんです。それをやると現在に歪みが出て、天変地異を引き起こす原因になります」
「えっ、ほんとかよ」
「と、言われてます。最近、天変地異が多いのは、無責任な神様が過去を変えたせいかもしれません」
「そうか、でも過去を変える方が楽な気もするんだけどな」
「過去を変えれば、今の不幸から逃げられるという考え方は危険です。私たち神様のやるべき事は、人間の過去を変えて現在を幸福にするのではなく、未来を幸福にすることを考えて現在を変える事です」
「説教はいいけど、これからどうすんの」
「二年前、中野有紀が太田貴史とデートする前に喫茶店で田辺美樹という女性に相談しています。その時二人の隣の席にいた夫婦の会話がこの中に入ってます」東地区神様はタブレットを取り出し電源を入れた。
「なに、動画か?」西地区神様はタブレットの画面を覗きこんだ。
「はい、夫婦の会話を動画に収めています。中野有紀はこの会話を聞いた後、太田貴史と付き合いたいと思ったんです。一度見て下さい」
 動画が始まると30歳位の夫婦と子供が映っていた。喫茶店で幸せそうに会話している動画だった。 
 動画は数分で終わり、西地区神様はタブレットから東地区の神様に視線を移した。
「これが何?」
「わかりませんか?」
「うん」
「そうですか」そう言って首を回してから話を続けた。
「中野有紀は幸せな家庭に憧れていたんですが、過去の失恋や家庭環境のせいで、彼女は太田貴史と付き合ってもうまくいかないんじゃないかと不安に思ってたんです。しかし、この動画の家族を見て、太田貴史とならこんな家庭がつくれると思ったようです」
「その女、面倒臭いだけでなく、単純だな」
「とりあえず、この動画を太田貴史に見せて下さい。僕は、あの時の夫婦の現在の様子を中野有紀に見せてみます。それで倦怠期から抜ければいいのですが、後は二人に任せるしかないでしょう」



『明日、これを見に行かないか』男性が内ポケットからチケットを取り出し女性の前にすべらせた。
『何、えっ、うそ~、あたしが行きたかったライブのプラチナチケットじゃない。よく手に入ったわね。あなた、これ、どうしたの』女性は、口に手をあてて驚いた様子だ。
『へへへ、君に内緒で手に入れたよ。ビックリしただろ』
『うん、すごくビックリ、でも嬉しさの方が勝ってるわ』
『喜んでくれると思ったよ。じゃあ明日、一緒に行こうな』男性は頭をかき、少し照れた様子だ。
『でも、涼太はどうするの。一人で留守番なんてさせられないよ』
『大丈夫、おふくろに頼んでるから、明日の昼過ぎに涼太を迎えに来るよ』
『お義母さんに申し訳ないわ』
『大丈夫だよ、おふくろは、涼太と過ごせるって喜んでたし、たまには嫁さん孝行しろって言われてたし、気にしなくていいよ』
『涼太は知ってるの』子供の頭に手をあてながら訊いた。
『涼太にも伝えてあるから大丈夫。涼太も爺ちゃんと婆ちゃんと御飯食べるのを楽しみにしてたし、君が喜ぶって言ったら協力的だった』
『涼太も知ってたんだ。知らなかったの、あたしだけ?』幼い子供の顔を覗きこんだ。
 子供はニッコリと笑った。
『そう、涼太にも口止めしておいた。君へのサプライズだからな。涼太もよく黙っててくれたよ。涼太も君をビックリさせたかったんだな』男性が子供に向かって微笑んだ。
『あなたも涼太もお義母さんも、みんなありがとうね』女性は隣に座る子供をぎゅっと抱きしめ、頬と頬を合わせ、小さく揺らした。

 西地区神様は動画が終わり、タブレットの電源を落として太田貴史に視線を移した。
「俺の理想とする家庭ですね」貴史は西地区神様に向かってにこやかな表情で言った。貴史が西地区神様に初めてみせる笑顔だった。
「あっ、そうなんだ」
「この動画は何か意味があるんですか」
「意味があるというか、中野有紀さんは、こんな家庭をあなたと築きたいと思っていたらしいです。でも無理だと思って別れを決めたようですね」
「なんで……、俺も思ってましたよ。何故、有紀は無理だと思ったんですか」
「倦怠期だと」
「倦怠期……、はぁ、言われてみれば、確かに最近は仕事に追われて楽しくしていなかったかもしれません」
「まあ、倦怠期くらいで落ち込むのもどうかと思いますね。今回の件はあなただけが悪いわけではないですよ」
「そうですかね」
「そうですよ、あなたが落ち込むことはないです。元気出して下さい」
「あっ、はい」
 貴史は最近の有紀に対する自分の言動を思い返していた。
「あれ、元気ないですね」
「俺が悪かったのかもしれません」貴史は俯いて小声で言った。
「そんなことないですよ。倦怠期なんて誰にでもあることですよ。それで別れようなんて、わがままなだけです。あなたは、気にすることなく気持ちよく別れたらいいんですよ」
「気持ちよく……、ですか」
「そうですよ、中野有紀さんが別れると言い出した理由もわかったことですし、全てあなたが悪いわけでもないですしね」
 貴史は俯いたままだった。
「でも、俺は、まだ有紀が好きなんですよ」
 西地区神様は「こいつも面倒臭いな」と呟いて、深く息を吐いた。
 その時、電話が鳴った。東地区神様からだ。西地区神様は貴史に「失礼」と言って、その場から離れた。
「なに? 今、大事なとこなんだけど」俯いたままの貴史に視線をやった。
「あっ、すいません。太田貴史と一緒なんですね」
「まあ、そうだけど。今、説得してるところだよ」首の後ろを揉みながら顔をしかめた。
「説得……ですか? あまり口を挟まない方がいいですよ」
「この男、まだ女に未練あるみたいだからさ。絶ちきってやろうと思ってるんだ」
「そこまで入り込まなくていいですよ。後は二人に任せましょう。もうすぐ中野有紀がそっちに行くと思います。あなたはその場から離れて下さい。二人きりにしてみましょう」
「うるさいな」電話を切って、電源を落としてしまった。
「すみませんね、東地区神様からでしたわ」貴史の所へ戻った。
「東地区神様はなんて?」
「あまりうまくいってないんじゃないですかね。あなたは、この場から離れた方が良さそうです。これ以上中野有紀さんに付きまとわれると、あなたの気持ちの整理がつかなくなる」
「有紀の気持ちは、どうなんでしょうか」貴史は西地区神様の肩を握り揺すった。
「東地区神様は、これ以上は関わらない方がいい、もう放っておけと言ってますね」
「俺達を見捨てるんですか」
「いや、わたしはそんな事しません。とりあえず今から東地区神様に会いに行きます。あなたは、一旦帰って下さい。ここにいない方がいい」
「わ、わかりました」
「じゃあ、わたしは行きます」西地区神様はエレベーターへと歩きだした。「お元気で」後ろを向いたまま右手を上げた。
「よろしくお願いします」貴史は西地区神様の背中に向かって頭を下げた。
「あなたは気持ちよく別れた方がいい」西地区神様はエレベーターに乗り込む前に貴史の方に視線をやって、独り言のように言った。


 ⑥ やり直し

 有紀は一人で喫茶店で時間を潰していた。一人で喫茶店に入ることなど、これまでにはなかったが、デートの予定が無くなり、やることもなく家にいると気が滅入るので、ここに来た。
 オレンジジュースを注文してスマホの画面を開いた。貴史とのメールは削除できないで残してある。今スマホを開いたのは貴史との思い出を削除しようとしたのか、思い出に浸ろうとしたのか有紀もわからなかった。
「こんなの残してても……、思いきって削除しようかな」

『今度の木曜日、休みが一緒だけど、どうする?』
 有紀が今日会う約束する為に送ったメールだ。
『任せるわ』
 貴史からの返信だ。
『平日だからすいてるし天空広場にひさしぶりに行ってみない?』
『行って何すんの?』
『わかんないけど。初デートの場所だし、いいかなと思って』
『気乗りしないな、とりあえずいつもの喫茶店で』

「全然、楽しくなさそう」有紀は呟いて、これらのメールを削除した。
「ふぅー、やっぱり別れてよかったんだろうな」有紀はスマホの画面から天井に視線を移した後、隣に座っている親子に気付いた。この親子には見覚えがあった。

『涼太、お父さん、今度の休み急に仕事が入って遊びに行けなくなったみたい。せっかく3人で出掛けようと思ってたのにね』
『チェッ、つまんねえ。それに今日もお父さん帰り遅くなるんでしょ』
『そうね、遅くなるみたい』
『お父さん、最近、帰りは遅いし休みは寝てるし全然遊んでくれないよ』
『ごめんね、今はお父さん仕事が大変な時なのよ。それとね、今日の夕食だけど、涼太のリクエストのハンバーグから茶碗蒸しに変えてもいいかな』
『えぇ、なんでだよ』
『お父さん、お婆ちゃんの茶碗蒸しが大好きって言ってたでしょ。お母さんもだいぶ、お婆ちゃんの味に近付いたから、今日疲れて帰ってくるお父さんを喜ばせようと思ってね』
『お婆ちゃんの茶碗蒸しか、僕も好きだよ』
『涼太も食べたことあったっけ』
『だいぶ前だけどね。お婆ちゃんの家で食べたことあるよ』
『へーっ、じゃあ、今日は茶碗蒸しで決まりね。涼太、この後一緒に買い物行こうか』
『OK、お父さん、喜ぶかな』
『きっと喜ぶ、お母さん、頑張るから』

「貴史も最近は仕事が忙しそうだったな。責任が重くなって大変そうだったのに、あたしは助けてあげてなかったな」有紀はスマホのデータを削除していた手を止めた。

「後は二人に任せるか」有紀の後ろの席に座る東地区神様は首を回しながら呟いた。
 有紀は氷が溶けてしまったオレンジジュースをストローで一口だけ飲み、「ふーっ」と息を吐いてから立ち上がった。
「あなたなら太田貴史と幸せな家庭を築けます。そう信じて下さい」東地区神様は喫茶店のドアを押す中野有紀の背中に向かって独り言のように言った。その後、西地区神様に電話をした。
 有紀は喫茶店を出てから天空広場へと向かっていた。天空タワーに上って景色を眺めてみよう。そこから貴史のマンションが見えるから、少しだけ見たくなった。

 天空広場まで来た有紀は派手なラーメン屋の看板を見上げ、ここのラーメンの味を思い出した。豚骨スープでコッテリしているように見えるが、食べてみると以外とあっさりしていて、野菜の甘味もあり美味しかった。女性に人気なのがうなずける味だった。これまで貴史と初デートで食べてから、二人で三回食べにきた。ここのラーメンを次に食べるのは、いつ、誰となのだろうと思った。
 天空タワーの入口を抜けて展望台行きのエレベーターのボタンを押した。一人で展望台まで上がるのは初めてだ。「ふっ」と息をつき、少し緊張してエレベーターを待った。エレベーターの位置を示すボタンが白く点灯し下りてくるのをぼんやりと目で追った。①が点灯して、エレベーターのドアがゆっくりと開いた。乗り込もうとした時、降りてくる男性とぶつかりそうになった。誰も乗っていないだろうと思い込んでいたので慌てて下がった。
「すいません」有紀は頭を下げて男性を見た。
 男性はニッコリと笑い、右手を上げて足早に歩いて行った。男の人が一人で展望台に上って何をしてたのか気になったが、女性一人で行く自分も周りから見れば不思議だろうなと思った。人それぞれに事情があるのだろう。
 エレベーターに乗り展望台のボタンを押す時「本当は貴史と来たかったな」と呟いた。今度は①から上へ上へと点灯していくボタンを目で追った。展望と書いてあるボタンが点灯してドアがゆっくりと開いた。降りようとした時、今度は乗ってくる男性の胸に頭をぶつけてしまった。「すいません」と顔を上げると知っている顔だった。
「た、貴史」
「えっ、有紀じゃないか」



 ⑦ チャーシュー麺

「俺は別れた方が良かったと思ったけどな」
「まあいいじゃないですか。太田貴史の幸福度は上がったんですから」
「けど、また下がるんじゃないか。太田貴史も中野有紀もフラフラしてるからな」
「彼らに限らず人間はフラフラしてますよ」
「ほんと、人間は面倒臭いね」
「そうですね、だから私達が必要なんですよ」
「俺は面倒臭いこと苦手だから、やっぱり神様向いてないかな」
「そんなことないですよ。太田貴史は、あなたを頼りにしてたじゃないですか。太田貴史にとってあなたが本当の神様だったんですよ。それに今回は、あなたのおかげでうまくいきましたよ」
「そうか、じゃあ、ここでラーメン奢ってくれよ」西地区神様はラーメン屋の前で立ち止まった。
「えーっ、後輩に奢らせるんですか」
「いいじゃないか。神様に先輩も後輩もないよ」
 ラーメン屋に入ると太田貴史と中野有紀の姿があった。
「二人はこのままうまくいくのかな」
「まぁ、これからも色々あるんじゃないですか。人間はそういう生き物ですから」
「とりあえず、チャーシュー麺でも食べようか」
「そうしましょ」
「すいません、チャーシュー麺下さい」
「……」
「すいませーん」