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人生も後半戦

人生も後半戦になったら、これまでの生き方に後悔することもあります。しかし、後悔しても仕方ない。この先楽しく生きるためにいろんなことに挑戦

小説を読もう「ラプラスの魔女 東野圭吾」の言葉表現4

東野圭吾の小説が好きで特に表現のしかたに憧れています。そんな表現をまとめただけの資料です。

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ラプラスの魔女 (角川文庫) 著者 東野圭吾 (著)

「いや、しかし……」
「名刺のようなものを受け取ったとおっしゃいましたよね」桐宮玲は青江の言葉を遮り、感情の読みにくい目をしていった。

「あ……そうですか。でもあのカード、あるかなあ。捨てちゃったような気もするんです」
桐宮玲の右眉がかすかに動いた。「大学のゴミ箱にですか? いつ」
「いや、それもよく覚えてなくて。どこへやったかな」青江は腕組みをして考えた。

「どうかされましたか」桐宮玲が訝(いぶか)しそうに訊いてきた。青江がスマートフォンを手にしたまま、動かないからだろう。

桐宮玲が疑わしそうな目を向けてきた。
青江は頭を下げた。「そうさせてください」そのまま俯いた。
彼女が、息を吐き出す音が聞こえた。
「そういうことなら、仕方ないですね。わかりました。連絡をお待ちしています」

あまり味わうこともなく食事を終え、青江は自室に入った。

それからどれだけ時間が経ったかわからない。気づくと身体を揺すられていた。
「うん、なんだ?」頭がぼんやりする。
「鳴ってるわよ、ケータイ」敬子が不機嫌そうにいった。
「えっ」

「だめだ。会ってからだ。大丈夫、君と会うことは誰にもいわない。桐宮という女性にもいわないでいてあげるよ」
円華がまた黙った。その時間が先程より長くなった。

「君なら知っていると思うからだ。だから教えてほしい。本当のことを。そのかわりに私は、私が掴んでいる全ての情報を打ち明けよう。警察が甘粕謙人を追い始めていることも含めて」
またしても沈黙の時間が流れた。青江は唾を呑み込んだ。もしかするとこのまま電話を切られるのではないか、という気もした。
「わかった」円華がいった。「でも場所と時間はあたしに決めさせて」
「いいだろう」青江は安堵の息を吐いた。

中岡が近づいていくと成田は煙草ケースを手に腰を上げた。どうやら喫煙所で密談らしいと察した。

「仕事?」成田は包みを横に置くと、くわえた煙草に使い捨てライターで火をつけた。

成田は歪めた口から煙を吐いた。「訊かれたことに答えろ。何をやってる?」

喫煙室にはほかに誰もいなかったが、中岡は係長の耳元に口を寄せた。「あれ、間違いなくクロですよ。しかも半端なヤマじゃない」
成田は煙草を指先で弾いて灰を落とした。顔に狡猾(こうかつ)そうな色が浮かんでいる。「何を掴んだ?」

「別のヤマとの関連です。そっちも温泉地で変死。硫化水素でね。苫手温泉です」
成田の目つきが鋭くなった。食いついてきた兆候だ煙草を立て続けに吸った後、顎をしゃくってきた。話の続きを催促している。

成田は煙草を深々と吸い、続けて大量の煙を吐き出した。
「見逃せるネタではなさそうだな。で、おまえはどんな絵を描いてるんだ?」

中岡の説明に納得したらしく、成田は頷きながら、「なるほどな」と短くなった二本目の煙草を揉み消した。

青江の言葉を制するように円華が彼の顔の前で手を広げた。
「その質問に答える前にあたしから訊きたいことがある。どうして青江教授が謙人君のことを知ってるわけ?」

そのオフィスは八重洲にあった。壁面がすべてガラスで出来ているように見える建物の五階が、中岡の目的地だ。

「突然すみません。驚かれましたか」中岡はいった。
「少し。だって、ずいぶん昔の話ですから」彼女はカフェラテのカップを両手で包んだ。
彼女の名は、西村弥生といった。甘粕謙人の姉、萌絵の高校時代の同級生だ。

「由里のところにも行かれたんですか」西村弥生は大きな目で瞬きした。

「ダンス部の同期に、甘粕萌絵さんという人がいましたよね。覚えていますか」
西村弥生の睫(まつげ)がぴくりと動いた。口元に運びかけていたカフェラテのカップをテーブルに戻した。表情が硬くなっている。「覚えていますけど、もちろん……」

「あなたは甘粕萌絵さんのお父さんがブログを公開していたのを知っていますか」
「あ……はい」彼女の表情が硬くなったように見えた。「誰かから教えられて見ました」
「読んでみて、どう思いましたか」
「どうって……」

「ほかには?」
「ほかには……ええと」言葉を選んでいる気配がある。「萌絵について、私たちの知らないことがたくさんあったんだなあとも思いました。あそこに書かれているエピソードなんて、彼女の口から聞いたことがなかったし……」

「だから、私以外の誰かから聞いたんだと思います」そういってから彼女は、ただ、と上目遣いで中岡を見た。
「何でしょうか?」
「いえ、何でもないです」かぶりを振り、再び視線を落とした。
「何ですか。気になるじゃないですか。いいかけて途中でやめるのは反則ですよ」中岡は声に笑いの響きを混ぜ、冗談めかしていった。

西村弥生が、おそるおそるといった感じで顔を上げた。
「本当に正直にいっちゃって構いませんか」
「どうぞ、どうぞ。望むところです」
西村弥生は気持ちを固めるように深呼吸をひとつしてから唇を開いた。
「あのブログ、ちょっとおかしいと思うんです」

それに、と川上は不服そうに唇を尖らせ、タブレット端末の画面を指した。
「ここに書かれている謙人がやってたこととか話してたこととかって、僕が謙人から聞いてた話とはずいぶん違うんですよね」

スマートフォンの振動を内ポケットの中で受け止めた時、青江は予感めいたものを抱いた。廊下を歩きながら電話に出た。

「来ていただければわかります。では今夜七時に」そういうと一方的に切れた。
青江はスマートフォンの画面をしばらく見つめた後、電源を切った。講義中は携帯電話の電源を切っておくのがルールだ。

青江は彼女の背後に目をやった。「今日は相棒はいないんだね」
「彼は彼で仕事があります。参りましょうか」

すると桐宮玲は、緩めた口元を見せるようにほんの少しだけ首を捻った。
「心配なさらなくても、先生を拉致するようなことはいたしません。」

男性は笑顔で近づいてきた。「ようこそ当研究所へ」右手を出した。「羽原です」

「それで納得しろと?あんなものを見せられて?」
青江の言葉に、羽原は顔をしかめつつも口元を緩めた。「スモークを使ったそうですね」

羽原は机に両肘を乗せた後、顔の前で両手の指を組んだ。
「甘粕才生氏のブログはお読みになりましたね」

青江は羽原を見た。口を開けたが、言葉が出ない。
「お気づきになったようですね」羽原はいった。

「まさかそんな……」青江は画面に目を戻した。「そんなこと、できるわけがない」

「羽原円華君も……」
「その話は、後回しにしてください」羽原が制するように手を出した。

「研究はどの程度進んでいるのですか」
羽原は肩をすくめ、両手を軽く上げた。
「まだまだこれからといったところです」

「いえ、それは違うと思います」不意に横から声が聞こえた。桐宮玲が椅子から立ち上がっていた。
「違う……とは?」青江は訊いた。
桐宮君、と羽原が窘(たしな)めるようにいった。「いわなくていい」
「いえ、やはりこれは青江先生にも知っておいていただかなければ」桐宮玲はゆっくりと近づいてきた。