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人生も後半戦

人生も後半戦になったら、これまでの生き方に後悔することもあります。しかし、後悔しても仕方ない。この先楽しく生きるためにいろんなことに挑戦

超短編小説 噂(うわさ)

「山中、こないだのテストの成績が学年トップじゃないか、凄いなぁ」
 昼休み、僕の前に座る宮川が後ろに座る僕に体を向けて、そう言った。
「ありがとう」
 僕は礼を言った。
 僕、山中和也は、この間のテストで学年トップの成績をとった。これまではベストテンで充分満足していたのだが、「トップになると注目度が上がる」という母さんの言葉に触発されて猛勉強した。母さんは特別に教育熱心なわけではないので、「トップになると注目度が上がる」と言ったのは、僕に勉強させようと思ったわけではなく何気なく言った言葉のようだ。なので僕が成績トップだったことを母さんに伝えても、「あっそう、良かったね」と軽い言葉が返ってきただけで、特別に喜んでいる様子ではなかった。もちろん、ご褒美なんてなかった。
 確かに母さんの言う通り、トップの成績になると注目度は上がった。成績トップの山中はどいつだと、別のクラスから見に来る生徒もいた。この宮川も今の僕に注目しているようだ。
「3組の北川知ってるか」
 宮川が口に手をあてながら小声で言った。
「あー、もちろん知ってる」
 僕は答えた。北川さんは学年一の美人だから男子は誰もが知っている。僕は、まともに会話をしたことはないが、廊下ですれ違った時は見とれてしまう。
「北川がお前にストーカーされてると言い回ってるらしいぞ。お前、そんな事やってんのか」
「何それ、やるわけないだろ」
 僕は宮川を睨み付けた。
「そんな怖い顔すんなよ、俺が言ってるんじゃないんだから。北川が言ってるらしい」
「何で北川さんが、そんなこと言うんだよ」
 僕はまた宮川を睨み付けた。
「俺は噂で聞いただけだから、よく知らないけど、学年でトップ成績の山中にストーカーされてるとなると、北川も注目されるとでも思ったんじゃないか。美人は、みんなから注目されたいんだよ」
 僕はうなだれた。北川さんて、そんな女の子だったのか。綺麗な顔してるけど性格が悪すぎる。腹が立ったので、これからは廊下ですれ違っても絶対見とれないようにしようと決めた。
「それから、お前のせいで学年トップから陥落した高木だけど」
「何で僕のせいなんだよ」
 高木はいつも学年トップの成績だったが、この間のテストは僕が奇跡的にトップをとったので、2番になった。高木は毎回トップの成績なので、たまたまトップになった僕とは頭の出来が違う。そんな高木を僕はリスペクトしていた。 
「今回のテストでお前がトップになったことが気にくわないのか、お前がカンニングしていたと言い回ってるらしいぞ」
「何、それ」
 僕はまた、宮川を睨み付けた。
「また怖い顔して、俺が言ったんじゃないよ。俺は噂を聞いたから教えてやってるだけだよ。けどお前に負けたことが、よほど悔しかったみたいだな」
 これまで高木をリスペクトしていたことを後悔した。そんな奴だとは思わなかった。
 確かにトップになると注目度は上がるけど、それは決して良いことではなかった。母さんにその事を教えてあげないといけない。今日はさっさと帰ってテレビでも見よう。絶対に勉強はしない。

 放課後、誰とも口を聞きたくなかったので、すぐに学校を出て早足で帰っていった。すると背後から激しい足音が聞こえた。
「山中、手伝ってほしいことがあるんだけど、今から時間あるか」
 僕の肩に手を乗せて、背後から息を切らせ声を掛けてきたのは親友の坂本だった。僕が不機嫌なことに全く気付いていないようだ。
「手伝ってほしいこと」
 僕は振り返り、坂本に聞き返した。
「今から、ある調査をしたいんだけど、それを手伝ってほしいんだ」
「ある調査って何の調査をするんだよ」
「ヘヘヘ、山中も興味ありそうだな」
 坂本は僕の肩を2度3度叩きながら目尻を下げた。
「何の調査かわからないのに興味があるかどうか、わかるわけないよ。坂本の頼みだから僕に出来ることは手伝うけどさ」
「有難う、やっぱり持つべきものは親友だ。成績トップの山中に声掛けて良かったよ」
 坂本は、また僕の肩を2度3度叩いた。
「成績トップは言わないでくれ、腹立つから。それで何を手伝えばいいんだよ」
「ヘヘヘ、これから何をするのか楽しみで仕方ないって顔だな、じゃあ教えてやるよ。そこのベンチに座って作戦会議だ」
 坂本は僕に頼み事をしておきながら、上から目線になっていた。いつものことなので気にはしていない。坂本とは保育園の頃からの付き合いだから坂本の性格はよくわかっている。
 僕達は広場の隅にあるベンチに腰を下ろした。
「楽しいことかよ」
 僕は期待していないが、そう聞いてみた。
「ヘヘヘ、山中は友ヶ山公園知ってるよな」
 友ヶ山公園は、ここから歩いて10分位のところにある公園だ。保育園の頃に遊んだ記憶はあるが、ブランコや滑り台、砂場があるだけの、どこにでもある公園だ。
「あー知ってる、保育園の頃に行ったきりだけどな」
 僕はそう答えた。
「そうか、10年位前か。じゃあ、友ヶ山公園が今どうなっているか知ってるか」
 僕は首を横に振った。
「知らない、友ヶ山公園って今でもあるのか」
 僕は10年位前の記憶だが、寂れた公園だったので無くなっていると思っていた。
「今もあるって言うか、すごい立派な公園になってる。見たらびっくりすると思うぞ」
「へぇーそうなんだ、坂本は今でも友ヶ山公園に行ってるのか」
「まあな、今は、ジョギングコースが出来てるし、バーベキューが出来る大きな広場まである。山肌を利用した本格的なフィールドアスレチックが人気みたいだ。大人でも楽しめる公園になってるんだ」
「へぇ、すごいな、行ってみたいな」
「そうだろ、そう言うと思ったよ。これから2人で友ヶ山公園に行くぞ」
 坂本はそう言って右手をグーにして僕の方に向けた。僕も右手をグーにして坂本の右手に合わせた。
 そうして僕達は友ヶ山公園へ向かった。行き先が友ヶ山公園であることはわかったが、坂本はそこで何を調査したいのかは話してくれなかった。
「坂本、友ヶ山公園に行くのはいいけど、そこで何を調査するんだ」
 僕は先を歩く坂本の背中に向かって言うと、坂本は振り返り、僕に向かって人差し指を立てた。
「それだ、それを話してなかったな。それが大事なんだ。何でさっき聞いてくれなかったんだよ」
 坂本は口を尖らせて言うが、坂本から誘ってるわけだから、僕が聞く前に坂本が話すべきだと思う。しかし、坂本はマイペースな男で悪気は全くない。昔からそういう奴だった。
「ごめん、聞きそびれちゃったよ」
 一応、僕が謝っておいた。
「あまり人に聞かれたくないから、友ヶ山公園に着いてから話すよ。それまでは秘密だ」
 坂本はそう言って人差し指を立て口にあてた。
「わかった、楽しみにしとくよ」
 僕がそう言うと坂本は目尻を下げ。口角を上げた。

「山中、着いたぞ、昔とは全然違うだろ」
 坂本は目を見開いて僕に向かって言った。確かに大きく綺麗な公園に変わっていた。保育園の頃に僕達が遊んでいた場所は噴水のある広場に変わっていて、その両サイドから山に登っていく整備された広い道があった。そして後ろにそびえる山からフィールドアスレチックの遊具のようなものが顔を覗かせていた。
「すごいよ」
 僕は思わず口にした。
「ヘヘヘ、そうだろ、びっくりしたか」
 坂本は自慢気に言うが、こいつが自慢することではないだろうと思った。
「で、何を調査するんだ」
「ガキみたいにあせるなよ、あそこに座ってから話すわ」
 坂本は噴水の周りに設置された白いベンチを指さして歩きだした。
「あせってるんじゃない、早く帰りたいんだよ」
 少し苛立ったが、坂本を追いベンチへ歩いた。先にベンチに座った坂本がベンチを手のひらでパンパン叩き僕にも座るように促した。
「早く座れよ」
 坂本がそう言ったので
「ガキみたいにあせるなよ」
 僕は言い返してやったら、坂本は左頬だけで笑みを浮かべた。そして、これから調査する内容を話し始めた。
「この公園にはフィールドアスレチックがあるんだけど、そこに、こんな長ーい滑り台があるんだ。それを調査したいんだ」
 坂本は両手を目一杯広げて滑り台の長さを表現した。
「長いって何メートル位あるの」
 僕が質問したら、坂本は首を傾げた。
「そんなの知らないよ。長さなんてどうでもいいんだよ」
 その時、噴水が高く水を上げ、僕達に水しぶきをかけた。近くにいた白い犬が急に出た噴水に驚いて逃げていった。
「この噴水、すごい迫力だな」
 僕が言うと
「噴水なんてどうでもいいんだ、滑り台だ」
「滑り台がどうしたんだよ」
 僕は苛ついて声を上げた。坂本は人差し指を立て口にあてた。
「声が大きい、これから話すことは誰にも言うなよ。実はここにある滑り台だけど、滑った人間が神隠しに遭うという噂なんだ。それが本当なのか調査したいんだ」
「神隠し……、そんな噂は嘘に決まってるよ」
 僕はベンチの背もたれに体を預けて天を見上げた。
 そんな噂の為に……、時間の無駄だと思った。しかし坂本は話しを続けた。僕が、あきれていることなどおかまいなしだ。
「ここの滑り台は、滑り始めて最初は左にカーブしながら緩やかに傾斜する。その後右にカーブした途端、傾斜が急になりスピードが出てトンネルを潜るんだ。トンネルを出たら緩やかな傾斜で左にカーブする。そのカーブが終わると真っ直ぐ急降下してゴールするんだが、みんなトンネルを潜った辺りで行方がわからなくなるらしいんだ」
「ただの噂だよ、それも小さな子供達だけの噂だ。調査するほどのことでもないよ」
 僕は立ち上がり帰ろうとした。
「じゃあ、1度だけでいいから山中が滑り台を滑ってきてくれよ。山中が無事にゴールまで滑ってきたら、ただの噂だと証明できる」
 坂本が立ち上がった僕の肘を掴み、そう言った。
「嫌だよ」
 僕は坂本の手を払った。
「何で、手伝ってくれるって言ったじゃないか」
「子供じゃないし、滑り台なんて滑れないよ」
「神隠しに遭うのが怖いんだろ」
「怖くないよ」
 本音は怖かったかもしれない。神隠しなんてあるわけないと思ってたが、やはり怖かった。万が一、噂が本当なら、僕はこの世界から消えてしまうわけだから滑る勇気はなかった。
「あの犬を滑らせてみようか」
 僕はとっさに、さっきの白い犬を指さした。
「飼い主に怒られるぞ」
「野良犬じゃないかな」
「野良犬でも神隠しに遭ったらかわいそうだろ」
「……」
 坂本は犬はかわいそうだと思っても、親友の僕が神隠しに遭っても平気なのだろうか。しかし、これが坂本なんだ。別に悪気は無いんだろう。
「大丈夫だよ、神隠しなんてあるわけないんだから、犬を滑らせよう」
「山中がそう言うなら犬でやってみてもいいけど、もし飼い主に見つかったら責任とってくれよな」
「わかった」
 僕はそう言ってため息をついた。完全な坂本のペースだ。
「それじゃあ始めるか。山中が犬を滑り台の乗り口に連れていってくれるか。俺は下で待ってるから」
 僕が犬を滑らせる役目なのか。さっきから坂本は楽な方に回ってばかりいる気がして少し腹が立った。
「坂本が犬を滑らせろよ」
 僕がやる必要はないと思って、言った。
「いや、犬を滑らすのは山中の提案だから、山中がやるべきだよ」
 なんて勝手な奴だ。この調査は坂本がやりたいと言い出したことなのに、そう思ったが、結局僕は引き受けた。坂本といると、いつも損な役が回ってくるような気がする。
 僕は犬に近づき、しゃがんで手を出してみた。犬はエサでも貰えると思ったのか、尻尾を振りながら僕の手の届く所まできたので、僕は犬の頭を撫でながら抱えた。人懐っこい犬で良かった。僕はそのまま滑り台の乗り口へ向かおうとした。
「山中、下で待ってるから、犬を滑らせる前に電話してくれ」
 坂本が慌てて僕に近づいて声を掛け、肩を叩いた。
「わかった」
 僕はそう言って、滑り台の乗り口がある坂を上った。おとなしくて可愛い犬だ。大丈夫だ、神隠しなんてあるわけないんだから。僕は自分に言い聞かせて、犬をぎゅっと抱き締めた。自分の身代わりにするような罪悪感を感じた。坂本にはこの気持ちはわからないだろう。
 滑り台の看板が見えた。坂の途中から左にそれて階段を上がると滑り台の乗り口だ。乗り口について携帯を鳴らした。
「おう、山中着いたか」
 坂本の興奮した声がした。
「今から犬を滑らせるな」
「わかった。下で待ってるな」
 僕は犬をもう一度抱き締めて、それから滑り台に置いた。手を離す前に犬の頭を何度か撫でた。犬は僕の手を舐めて応えた。坂本よりこの犬の方が利口に思えた。
「大丈夫だ、下に坂本という男が待ってるからな。そこまで行くんだぞ。終わったら坂本に美味しい物でも食べさせてもらおうな」
 犬にそう話しかけた。犬から手を離すとゆっくりと滑り始めた。怖かったのだろう、犬が始めて吠えた。
「ワンワン、ワンワン」
 カーブして僕の視界から犬の姿は消えた。しばらく鳴き声は聞こえていたが、それも聞こえなくなった。
 ポケットから携帯を取り出すと、すぐに鳴った。坂本からだ。
「山中、い、犬は、さ、さっき滑らせたんだよな」
 坂本の声が震えているようだった。
「滑らせたよ、さっき滑っていったよ」
「し、白い犬だったよな」
 坂本の声の震えがひどくなっていた。
「そうだよ、無事に着いたのか、どうなんだ」
 僕は携帯に向かって怒鳴った。
「不思議なことが起こったから、すぐに来てくれ」
 坂本の様子から犬が無事でないと思った。さっき出会ったばかりの犬だが、僕は涙が出そうになった。僕は慌てて坂本のいる所まで走っていった。
「犬はどうしたんだよ」
 僕は坂本の肩をゆすった。
「不思議な事が起こった。山中が電話をくれてから下で待っていたけど犬は滑ってこなかった」
「本当に神隠しなのかよ」
 僕は頭をかかえてしゃがみこんだ。
「いや違う、子供が滑ってきたんだ。白い服を着た子供だ。多分、滑り台を滑っている途中で犬が子供に変わってしまったんだ」
 坂本は僕の肩を両手で強く握り揺さぶりながら言った。
 僕は立ち上がり坂本の顔を見た。坂本は目を見開いたまま興奮した様子で、僕の顔を見て何度も頷いていた。
「で、その子供は」
 僕は周りを見渡しながら聞いた。
「走ってどこかに行ったよ」
「何で追いかけなかったんだよ」
 今度は僕が両手で坂本の肩を揺らした。
「いいじゃないか、すごい事がわかったんだから。この滑り台は動物が滑ると人間になり、人間が滑ると動物になってしまうんだよ。これは神隠しより、すごい事だぞ」
「そんな事あるわけないだろ」
「でも白い犬を滑り台にのせたのは山中、お前だぞ。その犬がいなくなった、それは事実だ。そして犬でなく白い服を着た男の子が滑り台を滑ってきた、それは俺が見たから間違いない」
「でも、その男の子がいないじゃないか、その男の子が、あの白い犬だったか証明出来ないよ。それに……、えっ……」
 僕は話している途中で、最初に座っていた噴水のベンチから目が離せなくなった。
「山中、どうした」
 坂本が言った。
「あれ、見ろよ」
 僕は噴水のベンチを指さした。坂本は振り返って僕が指さす方向に視線をやった。
「あっ、白い犬がいる」
 坂本は小声で言った。
「あー、間違いない。さっき滑り台を滑った犬だよ」
 僕の声は上がった。 
 そして、ちょうどその時、白い服を着た男の子が滑り台を滑ってきた。
「おい、さっき見た男の子って、もしかしてあの子か」
 僕が坂本に言うと、坂本は頭を掻いた。
「そうだ、あの子だ。間違いないわ。ヘヘヘ」
「ヘヘヘじゃないよ。犬も男の子もいるじゃないか。犬が男の子に変わったわけでもないし、神隠しに遭ったわけでもないじゃないか」
「そうみたいだな。犬も男の子も無事で良かったな」
 坂本はまた頭を掻いて言った。
「確かに無事でよかったよ」
 僕はあきれて、そう言った。
「でも犬は滑り台から降りてこなかったけど、どこに行ってたんだろうな」

 その後、坂本と二人で調査してわかった事は、滑り台は長ーい1本の滑り台ではなく、長い2本の滑り台だとわかった。僕が犬を滑らせた滑り台はトンネルを潜って出たところで終点になっていた。そしてそこが広場になっていて、2本目の滑り台の乗り口がその広場にあった。坂本が下で待っていた滑り台は、その広場からスタートしていたわけだ。僕が犬を滑らせた滑り台と坂本が下で待っていた滑り台は1本で繋がっていなかったわけだから、犬が坂本の所まで滑って来なかったのは当然のことだ。神隠しの噂はそんなところから生まれたのだろう。
「やっぱり、ただの噂じゃないか、坂本のせいで無駄な時間を過ごしたよ」
 僕がめずらしく坂本を責めた。
「ごめんな、でも噂に振り回されてジタバタするより、こうして調査した方が良いだろ。俺達はこれまでにも、きっと噂に振り回されて損してることがあるよ。真相を知らないまま損してることがある。それに調査してる間、山中も楽しそうにしてたぞ」
 確かに楽しかった。学校で腹が立っていたことを全て消してくれた気がした。やっぱり坂本は、変な奴だが親友だなと思った。そして、さっきの坂本の言葉がすごく大人に感じた。

「ただいま」
「遅かったわね、寄り道してたの。そうかぁ、成績トップで浮かれて遊んでたんだぁ」
 母さんが玄関で迎えてくれた。遅くなったので心配してたのかもしれない。普段は玄関で迎えてくれることはない。
「母さん、教えてあげるよ、僕は成績トップでも浮かれてないから。それから注目度が上がるのは、あまり良いことじゃないよ」
「あ、そう」
 母さんは特に興味無さそうに言って、キッチンへと消えた。
「母さん、友ヶ山公園て覚えてる」
 僕はキッチンに向かって声を上げた。
「あなたが保育園の頃によく遊んでた公園でしょ」 
 キッチンから声が返ってきた。
「友ヶ山公園がすごく大きくて綺麗な公園になっているの知ってる」
「何言ってんの、あそこは5年位前にマンションが建ったでしょ」
「そんなことないよ、僕はさっき、行ってきたんだから」
「ふーん」
 母さんはいい加減だから、どこかと勘違いしてるんだと思った。
「バーベキューが出来る広場や大きなフィールドアスレチックがあるんだ」
「へえ、そうなんだ」
 母さんから興味無さそうな返事が返ってきた。
「母さん、興味無さそうだね」 
 僕がそう言うと、母さんがキッチンから出てきた。
「ごめん、夕食の準備が遅れててね、はいコーヒー」
 母さんは、そう言って僕の前に座った。
「ありがとう」
「友ヶ山公園は無くなって、マンションが建ってるのは間違いないわ。そこのマンションにお母さんの知り合いが住んでるんだから」
「僕だって今日、坂本と一緒に友ヶ山公園に行って来たんだから間違いないよ」
「坂本って誰よ」
「母さんも知ってる保育園から一緒だった坂本だよ」
 母さんの眉間にシワが寄った。
「あなた、勉強の頑張り過ぎで、頭が変になって熱でもあるんじゃない」
 母さんがそう言って僕のおでこに手をあてた。
「何するんだよ」
 僕は母さんの手を払った。
「今日一緒だった坂本って、保育園の時に遊んでいた坂本祐介君のことを言ってるわけ」
「そうだよ、あのいい加減で気まぐれな坂本祐介だよ」
「坂本君が、いい加減で気まぐれだったかは知らないけど、お母さんは、坂本君の事、好きだったな。ちょっとやんちゃだったけど優しい子だったし、あなたと仲良しコンビだったから。坂本君と別れる時は、あなたも辛かっただろうなって思ってた……」
 母さんの目に涙が浮かんでるのがわかった。
「あっーーーーぁ」
 やっぱり僕は母さんの言う通り勉強の頑張り過ぎで頭が変になっていたのかもしれない。そうだ坂本は……坂本は……僕は涙があふれてきた。
 坂本とは保育園の頃に、よく友ヶ山公園で遊んだ。小学校の頃も坂本に誘われて一緒に遊んだ。しかし坂本は中学になる前に遠くへ引っ越してしまった。
 坂本が引っ越す前日に挨拶に来た。僕は悲しすぎて、まともに話せなかった。確か坂本から「じゃあな」と言われて、僕は「あぁ」としか返せなかった。もっと言いたいことはあったが泣きそうだったから何も言えなかった。あれだけ仲が良かったのに、最後はお互い他人行儀になってしまった。
 その後、坂本がどうしてるか気にはなったが連絡することも会いに行くこともなかった。僕はよく坂本と遊んだ頃のことを思い出す。嫌なことがあると坂本に会いたくなる。
 しかし連絡をとらないまま月日は流れ、風の噂で坂本が交通事故で亡くなったと聞いた。僕は悲しくてショックを受けた。怖くてその噂から逃げていた。
 今日会った坂本は何者だったんだろうか、僕に何かを伝えに来てくれたのだろうか。
 僕は坂本が亡くなったという噂が本当だったのか確かめなければならない。嘘であってほしい、今もどこかで元気にしていてほしいと思う。そしたらすぐに会いに行くのに。
 本当に亡くなっていたなら、お墓に手を合わせ「ここに来るのが遅くなってごめんな。小学校の頃、遊んでくれてありがとう。そして今日会いに来てくれてありがとう」と言いたい。

この先は坂本祐介の話しになります。坂本祐介は引っ越す直前に、ある噂を聞いていました。その噂のせいで主人公の山中和也との別れに悔いを残したままだったようです。山中和也の前に姿を見せたのは悔いを残したことを伝えたかったのかもしれません。


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