人工知能付き安眠枕
帰宅途中の電車内、中途半端な混み具合で、少し席を詰めてくれれば座れるのだが、前に座るカップルは、全く、その気は無さそうだ。明日のデートの予定で盛り上がっているようだ。
「明日はどこ行くの」
派手で大人びた化粧をしているが、まだ、それが板についてない若い女が言った。
「ミーちゃんの行きたがってたパンケーキの店に行ってみよっか」
男はスーツ姿だが茶髪には、不釣り合いなスーツだ。化粧や服装がしっくりこない者同士、2人はお似合いのように見えた。
「楽しみ~ぃ」
化粧女が茶髪男に抱きついた。
何故かイラつく。最近は他人の幸せそうな姿を見ると、無性に腹が立つ。
窓に雨粒があたるのを見て、鞄に入れたはずの折りたたみ傘を確認した。
もっとイラつく奴等がいた。
ドアの前に立つ2人だ。年齢は俺より、ひと回り以上は上だろう。顔を真っ赤にして、ごきげんそうに大声で話し、吐く息が酒臭い。くたびれたスーツ姿に歪んだネクタイが似合っている。1人の男が、もう1人の男の肩に腕を回してキスをしようとふざけている。
近くに立っていた女性は、怪訝そうな顔をして離れていった。
「楽しそうでいいよな。こっちは今まで仕事だったのに」
俺は独り言のように言って、ため息をついた。
「ハァー」
俺の名前は吉岡孝介、年齢は30歳で独身、職業はファーストフード店で正社員として働いている。2ヶ月前、店長に昇格して喜んでいたのだが、今は店長職の大変さが身にしみてきている。
店長になってからのストレスのせいか、眠れない日も多い。
俺は周りの雑音にイラつきながらも、ゆっくり眠りたいと思い、スマホで安眠グッズを検索していた。
アイマスクやマットレス、枕、アロマ、CDなど、色んな安眠グッズがあるようだ。その中で俺は、ある安眠枕に興味を持った。
AI(人工知能)付きの安眠枕だ。どんな機能があるのか商品説明に目を通した。
商品説明
1、この枕は、あなたの脳の状態を読み取り、あなたの必要な睡眠時間を計算します。
(必要睡眠時間はあくまで目安ですので、睡眠の質により変化します)
2、この枕は、あなたの脳にアクセスして、よりよい睡眠がとれるようにコントロールします。これにより必要な睡眠時間を短くすることが出来ます。
3、熟睡モードを利用すると、あなたの脳を強制的にリラックスさせて一段と短い睡眠時間で体調を回復させることが出来ます。
注意、熟睡モードの連続の使用は故障の原因になりますのでおやめください。
4、起きる時間を設定すれば、目覚ましが無くても、設定した時間に目を覚ますことが出来ます。時間設定していない場合は必要睡眠時間が消化されるまで、目を覚ませませんので、ご注意下さい。
クチコミ
・これを使うようになって、よく眠れるようになりました。特に熟睡モードの威力は凄い。
・必要な睡眠時間や不足している睡眠時間が見れて便利です。休みの日に足りない睡眠時間をまとめてとるようにしています。
・枕自体も心地よく眠りやすいですし、必要な睡眠時間を確認出来るのは、good!
評価、4.2
「よーし、これにしよう」
購入画面に進み、購入ボタンをタッチした。
顔を上げて窓を見ると、雨粒は大きくなっていた。
「チェッ、帰るまで待ってくれよ」
駅に着いた時には、雨足は強くなり、雨粒が確認出来ないほどになっていた。
2日後、安眠枕は届いた。
見た目は、なんの変哲もない枕だ。俺好みの弾力で、寝心地は良さそうに思えた。コントローラーはスマホより少し大きい物で、これを使って電源を入れたり、モードを選択したりする。必要睡眠時間もここに表示されるようだ。
枕カバーの色は、購入の時にアイボリーを選んでいたが、今になって汚れが目立つのが気になった。
とりあえず、コントローラーの電源を入れ、横になった。寝心地を確認する為、枕に頭を置いて位置を探ってみた。
「横向きが心地良い」
そう思って横向きに寝転がった。
コントローラーの計測ボタンをタッチすると『計測中』と表示が出て、鼻ちょうちんをふくらませて眠っている間抜けそうな男のイラストが登場する。数秒後、鼻ちょうちんが割れイラストの男が目を覚ます。
そして『計測完了』と表示される。
このイラストはいらないなと思った。若い女性のイラストの方が良いが、砂時計で十分だと思った。
その後
『あなたの必要睡眠時間の目安は8時間です』と表示された。
8時間も眠らないと疲れがとれないのかよ。今から寝ても6時間しか眠れない。仕方ない、起きる時間を6時間後にセットして、すぐに寝ることにした。
念の為、目覚ましもセットしておくことにした。布団にもぐりこみ目を閉じた。枕の心地良さのおかげで、すぐに意識を失っていた。
朝、自然に目を覚ました。セットした時間通りだ。いつもより、よく眠れて疲れを感じない。
その後、すぐに目覚ましが鳴った。目覚ましで無理矢理に起こされなくて良かった。
コントローラーの画面を見ると、
『おはようございます』
イラストの間抜けそうな男が挨拶している。これは要らない。どうせなら若い女性にしてくれよ。
次に
『不足睡眠時間は、1時間です』と表示された。
眠りは良かったようだ。不足時間は1時間減少していた。これなら、すぐに睡眠不足は解消出来そうだ。
睡眠が良かったおかげで、心身共に快調で、通勤の足取りも軽かった。
「店長、おはようございます」
社員の高橋が眉間にしわを寄せて挨拶した。
「おはよう、何かあった?」
高橋の表情から、何かトラブルがあったことはわかった
「アルバイトの八木なんですが、出勤してないんです。連絡してもつながらないし、今日は特に人手が少ないのに、ほんとに困りますよ」
高橋は唇を噛みしめた。
俺はシフト表に目をやり、今日の人員を数えた。
「うーん……、確かに今日、ヤバイな」
シフト表から高橋に視線を移した。唇を噛みしめたままだ。
今日はよく眠れて、気分が良かったのに、晴天から急に雨雲がかかった気分だ。
「あいつ、何考えてんだ。責任感無いのかよ」
「どうします?」
「どうするって、とりあえず出勤しているスタッフで回すしかないだろ。高橋、お前の教育不足のせいだぞ」
俺はカバンをロッカーに投げ込んで、急いで制服に着替えた。
朝からほとんど休憩をとることが出来なかった。高橋や他のスタッフの段取りの悪さにもイラだった。
部長に提出する売上対策報告書を作成しなければならなかったが、手をつける暇はなかった。
みんなが退社してから、1人で店に残り報告書を作成した。報告書は今日の夕方までに提出するように言われていた。多分、明日は朝から部長の小言を聞くことになるだろう。
八木が休まなかったら、高橋や他のスタッフの段取りさえ良ければ、こんなことにならなかったのに。
俺は今日もため息が出た。「ハァー」
ストレスのたまる1日になってしまった。まあ、店長になってからは、めずらしい事でもないのだが。平穏な日の方がめずらしいだろう。いや、平穏な日は、皆無と言っていいかもしれない。
今日もコントローラーの電源を入れた。男のイラストが若い女性に変わっていた。
「あれっ、これって日替りで変わるのかな」
しかし、若い女性の鼻ちょうちんはやめてほしい。
『あなたの必要睡眠時間の目安は9時間です』
「えー、昨日より長くなってるじゃねぇか。今日は時間無いよ、今から寝ても5時間しか眠れないよ」
起きる時間を5時間後にセットした。
「試しに、熟睡モードを使ってみるか」
熟睡と書いた緑色のボタンをタッチした。すると画面が緑色に変わり、上に熟睡モードと表示された。
「これでよし」
布団にもぐり込んでから、枕の位置を確認し横向きになった。すぐに意識がなくなっていた。そして、朝までぐっすり眠れた。目を覚ました時、体は軽い。こんなに熟睡したのは初めてかもしれない。
コントローラーを手にとって見た。
『おはようございます』
若い女性のイラストだ。
その後のメッセージは『不足睡眠時間はありません』
さすが、熟睡モードだ。体もめちゃくちゃに軽いし、頭も冴えている。
「よーし、頑張って仕事するぞ」俺は両手を高く上げて、背伸びした。
「店長、部長からお電話です」
高橋が渋い表情だ。部長から嫌みでも言われたのだろう。最近、売上が悪いから、部長の電話の内容は嫌みしかない。俺には昨日の報告書の件で嫌みを言うつもりだろう。
「お待たせいたしました」
俺は深呼吸してから、元気よく電話口に出た。
「おはよう、元気そうな声だな」
「そうですね、それだけが取り柄なもんですから」
「ほんと、取り柄はそれだけだね。売上は落ちてるし、売上対策報告書を昨日の夕方までに出すように言っておいても遅れるし、遅れて届いた報告書の内容も的外れだしな」
「……申し訳ありません」
右手の拳を握りしめて、歯ぎしりをした。
その後も売上が落ちていることで、延々と説教された。
「失礼致します。……、ふぅー、やっと説教、終わったよ」
椅子の背もたれに背中を預け、両手でデスクを叩いた。『バーァーン』
「うおぁーっ」大声で叫びたい気分だった。
「店長、お疲れのところ申し訳ありません」
高橋だ。
「なにっ」
嫌な予感がして、イラだった声で返事した。
「今、店長が部長とお話し中に、お客様からお叱りの電話がありまして」
「えー、またかよ。今度はなに?」
「先程、テイクアウトしたお客様からでして、自宅で食べようと袋をあけたら、注文した商品と違っていたということです。それからスタッフの対応も悪すぎるとお叱りを受けました。お客様の注文した正しい商品を持ってお客様宅にお伺いすることになっています。申し訳ありません」
高橋は他人事のように淡々と話しているように聞こえた。
こいつ、謝ってるけど、責任を感じてんのかよ。
「高橋、お前がしっかり教育してないから、こんなことばっかりあるんだろ。アルバイトは笑顔はないし、注意散漫だし、結局、俺が尻拭いしないといけなくなるじゃねえか」
「はい、申し訳ありません」
「今からお客様とこに行ってお詫びしてくるよ。高橋はアルバイトに笑顔で接客するように教育してくれ」
「はい、申し訳ありません」
謝ってばっかりかよ。
あーっ疲れた。これじゃあ、今日も必要睡眠時間は増えてんだろうな。
操作パネルのボタンをタッチした。若い女性が、にこやかな表情で立っているだけのイラストに変わっていた。
『あなたの必要睡眠時間の目安は10時間です』
「えーっ、10時間かよ、今日も熟睡モードしかないな」
俺は熟睡モードのボタンをタッチして寝た。
それからも毎日のようにストレスがたまる毎日を過ごした。そして熟睡モードを使い続けるしかなかった。熟睡モードを使わなければ、俺は睡眠不足と精神的な疲れで頭がおかしくなってしまいそうだった。
そんな日が続いたある日、俺は夢を見た。
この枕になってから、夢を見ることはなかったので、久しぶりの夢だ。
俺は夜の砂漠のような場所に1人で立っていた。満天の星空から声が聞こえてきた。透き通った女性の声だ。俺は空を見上げて耳を澄ませた。
「吉岡さん、こんばんは」
「誰だ?」
「あたしはあなたの枕です。実はあなたにお願いがあり、それを伝えるために、今あなたに夢を見てもらっています」
「お願い? 枕がお願いなんかするのかよ」
「普通はあり得ない事なんでしょうが、あなたが熟睡モードを使い続けている間に、あたしは進化してしまったようです。あたしは意思や感情を持つようになってしまいました。そして、あなたの脳内を知り尽くしてしまい、あなたへ特別な感情も生まれてしまいました」
「意思と感情を持って、俺のことを知り尽くした?」
「そうです、あなたの事は、あなた以上に詳しくなっています。好きな食べ物、好きな女性、苦手な人、苦しんでる事、楽しみにしている事、あなたが忘れてしまったであろう幼少の頃の記憶まで、何でも知っています」
「よくわからないけど、お願いっていうのは?」
「それは、少し熟睡モードを控えてほしいんです。これ以上使用すると、あたしの人工知能が壊れてしまいます。少し、休ませていただきたいんです」
「いや、それは無理だ。そんな事したら、俺の方が睡眠不足で壊れてしまい精神疾患にでもなってしまうよ」
「でも、これ以上、熟睡モードを使用すると、あたしが壊れてしまいます。そうなるとあなたも困ってしまいます。だから少しでいいんです。休ませて下さい」
「俺の事が理解出来ているなら、俺の仕事の苦労もわかってるだろ。このままだと俺が壊れてしまう事もわかるだろ」
「確かに、今のあなたの脳は精神疾患になってもおかしくないくらいハードな状態です。だから睡眠中にリラックスさせる事は、あたしにとって重要な使命だと思っています」
「わかってるなら、これからも頼むよ」
「でも、ダメなんです。あたしが壊れそうなんです。あたしの負担を減らす為にお願いします。吉岡さん、少し笑顔で生活して、リラックスしてみて下さい。人に優しく笑顔で接してみてください。高橋君やアルバイトに本当の笑顔で接してみて下さい。お客様にも本当の笑顔で、すれ違う人にも笑顔で、そうしたら、きっと、あなたのストレスは半減します」
「俺はストレスのせいで、眠れなくなったから君を購入したんだぞ。それなのに、何で君にそんな事、頼まれないといけないんだ。君は俺のストレスをとる為に頑張るしかないだろ」
「わかっています。でもこれ以上は、あたしの力だけでは難しいのです。上司の意見に素直になり、部下に感謝の気持ちを持っていただければ、あなた自身も楽になると思います。そして休日を取って体を休めて下さい」
俺は首を横に振った。
「休みとれる状況じゃないんだよ。売上も悪いし、人手も足りないんだ。俺がやるしかないんだ」
「そうですか……、残念ですが……、……わかりました。……もう少し頑張ってみます」
満天の星が消えて真っ暗になった。
俺は目を覚ました。体は重たかったが、すぐに枕を見た。
「変な夢、見せるなよ、ほんとにお前が夢の中で話しかけたのか」
俺は枕に向かって問いかけた。そして、コントローラーに視線を移した。
『おはようございます』
画面が赤くなっていた。文字もぼやけて見えにくかった。そして『おはようございます』の文字が、ぼやけたまま、ゆっくりと変わっていった。
『不足睡眠時間は5時間です』
文字がダブってぼやけていた。目をこすって、もう一度見直したが間違いない、5時間だ。
俺はぶちギレた。
「なんで5時間なんだよ、熟睡モードにしてただろ。夢なんか見せるから熟睡出来なかったじゃねえか」
おれはコントローラーを枕に叩きつけて、起き上がった。腹が立って枕を思いきり踏みつけた。
「変な夢見せるなよ。役立たねえな」
職場は相変わらずトラブルばっかりだ。そしてアルバイトには笑顔がない。
部長からもムカつく電話がかかってくる。
売上は思うように上がらない。
何もかも俺の思い通りにならない。
すれ違う人にもイラついた。
何もかもにイラついた。
日を追う毎に、ストレスがひどくなっていった。
毎日、熟睡モードを使い続けるしかなかった。しかし、熟睡モードの威力は、日に日に落ちてきている。
「そろそろ、他の安眠グッズに買い換えるしかないな」
修理に出そうかとも思った。保証はあるのだが、熟睡モードを使いすぎていたことが、修理に出すのを躊躇させていた。
そんな日が続いたある日、コントローラーの電源を入れたが、画面が暗くてほとんど見えない。
電源を切って入れ直したが変わらない。2度、3度繰り返したがダメだった。
時間の無駄のようだ、俺はあきらめて、そのまま寝る事にした。
また、夢を見た。
この間の夢と同じ場所のようだが、今日は太陽が頭上にあり、俺は額に汗をにじませていた。遠くに人の姿が見えた。少しずつ、その姿が明確になってきた。アイボリーのワンピースを着た女性だ。それも俺の好みのドストライクだ。一目惚れしてしまいそうだった。
女性が俺の前に立った。
「吉岡さん、こんばんは」
「あっ、はい」
俺の目はハートになっていたかもしれない。緊張して言葉が出ない。
「あたしの事、わかりますか」
俺は首を小さく横に振った。こんな可愛い女性、1度見たら絶対に忘れるわけがない。間違いなく初対面だ。
「あたしは、先日、あなたとお話した、あなたの枕です」
「俺の枕って、あの枕か」
「そうです。あなたの、あの枕です」
「何故、枕がこんな可愛い女性になってるんだ。それもしぐさや話し方までもが俺の理想の女性じゃねえかよ」
「そう言ってもらえて嬉しいです」
照れながら頭を下げた。
ワンピースの胸元が色っぽい。俺は見入ってしまい、生唾を飲んだ。
「あたしは毎晩、あなたの脳に入って、ストレスを除いていましたから、あなたの脳の中はよくわかっています。あなたの理想の女性になって夢に現れる事は容易いことなんですよ」
「何で俺の理想の女性になって現れたんだ」
「実は、あたしは今日で完全に壊れてしまいます。そうなると、あなたは壊れたあたしを処分して、新しい安眠グッズを検索することでしょう」
女性は恨めしそうな目をしていた。俺は熟睡モードを使い続けたことに、少し引け目を感じた。
「意思と感情を持ってしまったあたしは、生き残りたいと思ったんです」
「……生き残りたい?」
「そう、生き残りたいんです。そしてあなたとずっと一緒にいたい。それを叶える為には、あなたの記憶に強く残るしかないのです。あなたの記憶となって脳の中で生き続けるんです」
「確かに、これだけ可愛い女性だと俺の記憶に残るわ」
「記憶に残ってくれましたか? それは良かったです。これで枕が壊れても、あなたの脳に残り、就寝中だけでなく四六時中、あなたのストレスを取り除くお手伝いが出来ます」
嬉しそうに、照れながら、後ろに腕を組んで、胸を突きだした。
俺は胸の膨らみに目がいってしまった。
「それじゃあ、これから君が壊れた枕の代わりにストレスを取って熟睡させてくれるのか」
「はい、そういうことになります」
「それは助かるな」
「これから毎日、あなたの脳を休めストレスを取り、リラックスさせます。そして、あなたの恋愛感情は、あたしにしか向かないようになります。あたしは一生あなたの脳の中で生き続け、あなたの全てが、あたしのものになります」
「えっ……、それってどういうことだ。……ちょっと待って」
太陽が消えて、真っ暗になった。最後の言葉が気になった。
少し嫌な予感がした……、
そして目を覚ました。
それからの俺は、心身共にストレスが減り、熟睡も出来て快調だ。周りに笑顔をふりまき、優しくなった。
売上も上がり、部長の嫌みや小言もなくなった。
周りから人が変わったようだと言われる。俺も自分でありながら自分でないように感じることがある。
たまに記憶も無くなっている。
特に記憶が無くなるのは恋愛に関することだ。気になる女性が現れても、次の日には、その女性のことを忘れてしまっている。気になる女性との会話した内容も記憶から無くなり、恋愛感情も消えてしまっている。
そして、女性に恋愛感情を抱いた日は必ず夢を見る。ベージュのワンピースを着た女性が現れて、恨めしそうな目で俺を見る。
俺はストレスの無いリラックスした日々を手に入れたが、現実の世界で女性を愛することが出来なくなってしまったようだ。
俺が愛することが出来るのは、夢の中のベージュのワンピースの女性だけになってしまった。
完