⑥婚カツ屋という名のちょっと変わった結婚相談所
千崎涼子
「いらっしゃいませ」
「お弁当は温めますか」
「お会計は635円です」
「ありがとうございました」
今日は早朝からのアルバイトで、十二時に店長が出勤してきたらあがりだ。早朝からのアルバイトの日は、朝起きるのは辛いけど、仕事が終わってから時間がたっぷりあるので、得した気分になる。午後からは、のんびりと過ごせる。
「千崎さん、おはよう」店長の大きな声が背後から聞こえた。振り向き店長を見ると、昨日は夜遅くまで勤務していたようで、体型は熊のようだけど、目はウサギのように真っ赤だ。
「店長、おはようございます」
「千崎さん、今日も朝早くから出勤してもらって申し訳ないね。おかげで助かるよ」
「店長、大丈夫ですよ」
「そう、それならいいんだけど。俺は、もう歳だから、24時間のコンビニ経営はきついわ」店長はそう言って首をぐるりと回して右手で首の後ろを揉んでいた。
「そんなぁ、店長まだまだ若いですよ。それに私の方こそ店長にお世話になりっぱなしで、本当にありがとうございます」わたしは四十五度のおじぎをした。
このコンビニで働くようになって三年近くになる。店長は、わたしの叔父で、三年前に脱サラしてコンビニを始めた。叔父から店を手伝ってほしいと頼まれて働きはじめた。
当時、わたしに頼まなくても、アルバイトは充分にいた。
叔父は、わたしの為に声をかけてくれたのだとわかっていた。当時のわたしは精神状態が鬱々として、ひきこもりがちになっていた。そんなわたしを心配して社会復帰するきっかけを与えてくれたのだろう。わたしを心配していた母が自分の弟である叔父に頼んでくれたのかもしれない。おかげで、わたしも立ち直ることが出来て、毎日楽しく過ごせるようになった。叔父と母には感謝の気持ちしかない。
「今日は昼までかな」店長がシフト表に視線を落としながら確認してきた。
「はい、六時から十二時です」
「不規則なシフトで申し訳ないね」店長はうすくなってきた頭を掻いた。最近は特にうすくなった気がする。白いものも増えていた。
「店長、大丈夫ですよ。わたしの休みもわがままきいてもらってますし」店長の背中にまわりこみ、背伸びして店長の肩を軽く揉んだ。肩がパンパンに張っているのがわかった。コンビニの経営者として、成功しているように見えるが、わたしたちアルバイトには、わからない苦労があるのだろう。これから、店長にもっと恩返しをしないといけないと肩を揉む力を強めた。
「千崎さん、有難う。楽になった」顔をクシャクシャにして笑ってくれた。やっぱり熊のようだと思った。
「うふっ」自然と笑みが出た。