2019-06-04から1日間の記事一覧
書き出し チ、チ、チ……と、薄暗い空間に秒針の音が響く。 壁の時計を見上げると、夜の八時過ぎを示していた。 遅いな。 まだかな……。 座り心地の悪いベンチに腰掛けたわたしは、薬品の匂いのする空気を深く吸い込んで、ため息をつく。 あらすじたまちゃんは…
ときどき、その静かな廊下を看護師さんたちのシルエットがコツコツと靴音を響かせながら行き交う。彼女たちの控えめな靴音が響くことで、むしろ院内の静けさが際立っている気がする。床を這うようなブーンという低い音は、暗がりにぼんやり浮かび上がる自動…
小柄なシャーリーンが、ほとんど天井を見るようにして看護師さんに訊いた。 シャーリーンの唇からこぼれ出た「娘」という単語は、わたしの胸の浅いところで礫(つぶて)のような違和感となって、ころりと転がった。 シャーリーンは両腕を抱くようにして、凍え…
森沢明夫さんの 「たまちゃんのおつかい便」より小説を読んでいると、普段聞きなれない言葉にぶち当たります。特に森沢明夫さんの作品には多いです。 そのまま読み進めても何となく理解はできるのですが、立ち止まって調べてみると、その小説の深さを感じる…
小説から学ぶ小説を読んでいると、人生の教訓になるような言葉がたまに出てきます。主人公に向けて誰かが発したり、主人公が誰かに向けて発したりと、何気なくでてきます。 自己啓発の本を読んで学ぼうとした言葉より、小説にぼつんと出てきた言葉の方が、心…
森沢明夫さんの「たまちゃんのおつかい便」に出てきました。 シャーリーンの唇からこぼれ出た「娘」という単語は、わたしの胸の浅いところで冷たい礫(つぶて)のような違和感となって、ころりと転がった。 義理の母親、フィリピン人のシャーリーンが、「娘が…
森沢明夫さんの「たまちゃんのおつかい便」に出てきました。 シャーリーンの手の動きが止まり、背中から離れた。違和感の残滓(ざんし)は、しばらく残っているだろう。でも、気にしないことにする 主人公のたまちゃんが、手術をしている父親を心配している時…