しかし、ここから先、自分がやらなくてはいけない作業を思い描くと、身体全体がこわばる。口の中に苦いものを感じた。胃袋が経験したことのないほどの収縮をはじめ、胃液が食道を通り押し出される。
自分を落ち着かせるため、勅使河原は目を瞑り親指と中指を眉間に強く押し当てた。
座る勅使河原の位置からは熊川の尖った喉仏が見える。その喉仏を動かしてゆっくりと、そして低い声で熊川が尋ねてきた。
勅使河原の感情を冷やすように、熊川は穏やかに笑った。
勅使河原の奥歯に強い力が加わる。もし、田畑や浅川がいなかったら、腹の底から沸き上がった感情が体の外で破裂していたに違いない。
まるで素手で内臓を優しくいじられているような嫌な気分を勅使河原は味わっていた。
ビールの液体と共に屈辱感が内臓の様々な部位に染み込み、至る所できりきりとした痛みを引き起こす。
苺の手を解くと、勅使河原は怒りをぶつけるようにコンビニの駐車場から大きなタイヤ音をさせて車を急発進させた。前方を睨みつけ肩で息をする。
畳三畳ほどの空間だった。窓はあるもののすぐ向こうは建物なのだろう、部屋は薄暗い。主人が明かりを点けると勅使河原は少し腰をかがめながら中に入る。カビの匂いが鼻を突いた。壁紙の一部がはがれ、むき出しになったコンクリートにシミが浮き出ていた。