鈴木はからだを小刻みに震わせながら、ロボットのようなぎくしゃくした動きでおにぎりをちぎると遠くに放った。
最初は苦手に思っていた駅前のけばけばしい風景も、肩を寄せ合うように屹立(きつりつ)するビルの群れも、今では心地よく感じていた。
清水が露骨に顔を歪め、肩に乗っかかった毛虫を払うような仕草をした。
「まさか……」
それはないだろう、益田は首を振った。
だが、清水と内海はそんな益田を置いてきぼりにするように、その話で大いに盛り上がっている。
どうして自分のせいなのだと、鈴木の表情に抗議の色が滲んだのがわかった。
いくらビールを飲んでも、先ほどから胸の奥につかえている澱(おり)のようなものを押し流すのとができない。
また、心の中から息子の存在を閉め出してしまった。
強い日差しが容赦なく肌に突き刺さってくる。
蜃気楼のように揺らめく景色の中で、背の高い男性がこちらを向いた。
彼にしか描き得ないであろう、激しい感情の発露だ。
弥生の知っている彼は、どこか植物を思わせるような蒼白な顔にほっそりとしたからだつきをしていた。
本当はちがう理由で早く来ていたのだが、弥生は微笑みで嘘を隠した。
抗いきれない磁力に引き寄せられるように、美代子はすぐ目の前にいる鈴木に顔を近づけていた。
あんたーという言葉を聞いて、漏れそうになる溜め息を必死に押し留めた。
「しばらくお母さんと一緒に暮らさない」
そう言うと、智也の目が少しだけ反応した。
鈴木の声を聞いた途端、からだじゅうを締めつけていた恐怖という鎖が解(ほど)けていった。
鈴木と楽しそうに接している彼らを見ていると、胸の中に鉛を詰め込まれたような息苦しさに襲われるのだ。
さちこさんの家にたどり着くと、溜め息をひとつついてベルを鳴らした。
益田の美代子に対する言動を思い返しているうちに、その可能性がより色濃くなっていくようで心が暗澹(あんたん)となった。
個室のドアを開けた瞬間、社長と奥さんが不自然なほどの笑みを向けてきた。
何とも言えない違和感を抱いて、美代子はその場に立ち尽くしてしまった。
美代子は唇を強く噛み締めながら益田が出ていったドアをじっと睨みつけていた。
明日から益田の顔を見ないで済むと思うと、自分の取り巻いていた悪環境のひとつが取り除かれたようで清清する。