何だか妙な偶然がジェンガの如く重なり合っているが、相手を個別認識しているのはあくまで征志のほうだけだ。
「あ、それは嫌なんです」
彼女は口を引き結んで首を横に振った。
それもそうだな、と思ってしまったのは彼女の話術に飲まれている。
滑り込んできた西北行きの電車に乗り込んだ翔子、威嚇のようにヒールの音を鳴らしながら車両に入った。
大事にココロのアルバムにしまっておこう。
「お前はしっかりしてるし一人でも生きていけるだろ」
安い歌謡曲のような台詞をあたしに向かって吐くな。
かなり美人たが、まるで人を刺してきた帰りのような顔をしている。
ホームに電車が滑り込んでドアが開いた途端、翔子も乗客の圧力に押されてホームの右側へ吐き出された。
ギャーギャーと南国の島が鳴き喚いているような奥様方を、亜美は興味津々で見つめている。
奥様方のおしゃべりは途切れ、眦(まなじり)を吊り上げてこちらを睨んでいる。