クライマーズハイ 横山秀夫
あらすじ
1985年御巣鷹山で日航機が墜落した。群馬県の地方紙、北関東新聞の記者、悠木は同僚で元クライマー安西に誘われ谷川岳の衝立山に挑むはずだったが、悠木は未曾有の事故の全権デスクを命じられ谷川岳に行けなくなった。
安西の自宅に連絡を入れたが、安西はすでに出掛けていた。携帯電話のある現在と違い自宅以外に連絡のつけようがなかった。安西との約束を破ってしまった。
悠木は航空機事故の全権デスクとして、体力も精神もギリギリの状況の中で、次々と難しい判断を迫られていた。誰もが経験したことのない事故の取材で緊迫状態が続き、組織の派閥争いや他部署とのトラブルも多く葛藤だらけの日々だった。
一方で、一人で衝立山へ出発したはずの安西が、山とは無関係の歓楽街で倒れ意識不明だと連絡が入った。
なぜ、安西が衝立山ではなく歓楽街で倒れていたのか? 衝立山に行かなかったのはなぜか? 調べていくうちに悠木の知らなかった安西の一面が見えてくる。
そして安西は謎の言葉を残していた。「なぜ山に登るのか」の問いに「下りるために登るんさ」と言った。これの意味は何だったのか?
新聞社という組織の中、妬み、プライド、しがらみ、上司、部下との相克に葛藤し、仕事に追われ、家族との関係に悩み、苦しみ、新聞のあり方を考え、友人安西の謎を調べる。忙しく、緊迫し、そしてワクワクする作品です。
読みながら自分自身が新聞社の緊迫した喧騒のなかに吸い込まれてしまいました。読み終わると、吸い込まれすぎて、良い意味で疲れる作品です。そのくらいのリアルさが、横山秀夫さんの筆力のおかげで感じることができます。
映画化、ドラマ化される理由がわかります。
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すぐに連絡をとりたいが、とれない葛藤。現在と違い携帯電話のない時代ならではだなと、現在の便利さを実感しました。
書き出し
旧式の電車がゴトンと一つ後方に揺り戻して止まった。JR上越線の土合駅は群馬県の最北端に位置する。下り線ホームは地中深くに掘られたトンネルの中にあって、陽光を目にするには四百八十六段の階段を上がらねばならない。それは「上がる」というより「登る」に近い負担が足に強いるから、谷川岳の山行はもうここから始まっていると言っていい。
悠木和雅は爪先の収まりの悪さに登山靴を意識していた。
そうでなくても一気に階段を上がりきるのは難しかった。ペンキで書かれた「300段」の手前の踊り場で、たまらず一息入れた。十七年前と同じ思いにとらわれる。試され、篩(ふるい)に掛けられている。ここで息が上がるようなら「魔の山」の領域に踏み入れる資格はないということだ。