おすすめ! 森沢明夫作品を読もう「夏美のホタル」
夏美のホタル 森沢明夫
保育士の夏美は大学生の彼氏とドライブ中に山奥にある「たけ屋」という店に立ち寄る。「たけ屋」は老いた親子が営む小さなお店ですが、夏美と大学生の彼氏は夏休みに、ここで過ごすことになる。
そこで、夏美は山奥の自然を満喫し、そして「たけ屋」の老いた親子の愛情や優しさにふれる。
それからも夏美は「たけ屋」の親子とかけがえのない関係を築いていくが、ある時、悲しい事件が起こってしまう。
森沢明夫さんの作品は登場人物が優しくて癒されますし、表現が美しいので気持ちが清々しくなります。
書き出し
コト……。工房の時代めいた薪ストーブが幽(かす)かな音をたてた。
重なりあって燃えていた薪が崩れたようだ。
ストーブの前で丸くなっていた黒猫の夜叉(やしゃ)が、目と閉じたまま耳だけをピクリと動かした。
深閑として冷え込んだ、山奥の春の夜である。